不思議: /5
愛?: /5
田口ランディさんの「蝿男」を読みました。
『蝿男』
定年も間近な男が奇跡的に若い女性と知り合った。
男運のないその女にすっかり夢中になり、その体をむさぼる男。
しかし男の体は実は回復の見込みが無い病魔に侵されていたのだ。
『サイボーグ・ナナ』
ナナにとって携帯電話は彼女自身であるといえるほど大切なものだった。
歴代の携帯は全部ベッドの下に大切に保管してある。
古い電話に電源を入れてみると、不思議なことに電話がかかってきた。
『すっぽん』
雑誌の記者をしていた私は、ある大物企業家から企業のきっかけに
なった出来事について質問した。彼が言うには究極のすっぽん料理に
出会ったからだという。
『海猫の庭』
むなしさに駆られて街をブラブラと歩いていたら、「ロマン」という店の
客引きのおばさん、さっちゃんに出会った。お金が無い私にさっちゃんは
ママに身内だと偽ってまでお酒を飲ませてくれた。
『蛙たち』
取材旅行でアウシュビッツを見学することになった。
スピリチュアル系作家の森蘭子とガイドのモニカで凄惨な収容所の
様子を半ば気楽な観光気分で見て回るが……
『鍵穴』
鍵屋でアルバイトをしていたオレは、ローズハイツというボロのアパートの
鍵をあけるのは造作も無いことだった。ひどい悪臭のするその部屋に
放置してあるものが気になって、何度も鍵を開けて侵入し続けてしまう。
腐純愛小説集、と銘打ってあります。
ふじゅんあい【腐純愛】(名)
腐った純愛。相手あるいは自分が腐ってしまうほどの純愛。
転じて、それぐらい深い愛のこと。不純な愛とは区別されるべきである。
ということで、この腐純愛がテーマになった
短編集でした。
しかし読み終わってみると「愛」というより「不思議」という印象の方が
残ります。
ちょっと読み返してみると確かに様々形の愛が登場するのですが、
田口さんらしいあの不思議感とぶつかると、
感想はやはり「不思議」。良くも悪くも「不思議」。
現実からフワフワと浮き立つようで、
妄想、スピリチュアルとの境界が曖昧な世界へ
いつの間にか迷い込んでしまいます。
この浮遊感、嫌いじゃないかも。
しかし「腐ってしまいそうなくらいの純愛」という表現は
妙にしっくりきます。
少しだけ生々しいグロテスクさを感じる短編が多いからでしょうか。
中でも『鍵穴』が一番好きです。
主人公の生い立ちや行動が切ない。
そしてこの中では一番分かりやすい展開だったような
気がします。
短編でお手軽に田口さんの世界を堪能できました。
長編も好きですが、独特な世界観が展開されるので
短編の方が読みやすい気がしますね。