妖しさ: /5
美しさ: /5
気絶……: /5
長野まゆみさんの「咲くや、この花」を読みました。
「左近の桜」に続くシリーズ第二弾です。
『迷い犬』
桜蔵は離れの門口で奥を覗き込んでいる黒ずくめの男を見つけた。
近々死人がでる前触れである”クロツラ”がいるという。
『雨彦(あまびこ)』
休養日、女将も弟も外出し、桜蔵は留守番をしていた。板前の
佐久間は厨房で包丁の砥ぎ師・菊政を待っていた。
『白雨(ゆうだち)』
かつて桜蔵が寝室に使っていた時雨の間という部屋がある。
そこではよく不思議な物音がした。
『喫茶去(きっさこ)』
墓参りの際に母が見つけた見覚えのない花入れの始末を
押し付けられた桜蔵は学校の帰りに霊園へ赴く。
『ヒマワリ』
離れに下宿している弥(はるや)はばらまかれていたいう一枚の写真を
見せた。それは取ったおぼえのない桜蔵自身の写真だった。
『千紫(せんのむらさき)』
父の柾(まさき)に頼まれ亡くなったG氏の家へ赴く桜蔵。ところが
受け取った古書に10万円も挟まっていることに気付く。
『髪盗人』
桜蔵が一人で留守番をしていると一人の女が訪ねてきた。
具合を悪くしているようなので仕方なく座敷に上げたが……。
『雪虫』
弟の千菊(ちあき)の誕生日に泊りがけでK高原まで行くことになった。
父の柾と三人でたった1泊の旅だった。
『灰かぶり』
クリスマスに柾の正妻・遠子に呼び出され、外出に付き合うことになった。
訪れた<サンドリヨン>とう店は奇妙な店だった。
『黒牡丹』
センター試験の帰り、桜蔵は友人・久生と連れ立って料理屋に入った。
出された豆腐に久生はめずらしく苦言を呈した。
『梅花皮』
大学の合格発表を前に縁起の悪い夢を見た桜蔵。発表当日、
夢で見た男が本当に目の前に現れて……。
『桜守』
卒業式を終えた桜蔵はガールフレンドの真也と待ち合わせていた。
ところが真也が来ない。そして犬に付きまとわれてしまう。
人目を忍ぶ逢瀬のための隠れ宿「左近」の
桜蔵が様々な怪異に振り回されるシリーズ2作目です。
桜蔵が前作以上に”されるがまま”な印象でした。
毎回この世のものでないものに
いたく気に入られてしまうのですが、
状況がのっぴきならなくなると桜蔵は気絶します。
12編の連作短編ですので、桜蔵は12回気絶します。
別世界との境界をフワフワしているような作品で、
一体どこからが”あちら”に紛れ込んでしまったのかが
曖昧です。しかしそれがまた幻想的。
いかにも長野さんの作品らしく、
季節の描写も相変わらず美しいです。
”あちらの世界”の人もいろいろなヴァリエーションが
あって面白かったです。死人や人形、虫……など
桜蔵の体を皆が欲しがっています。
しかしそれ以外ではパターンが固定化されてきていて、
先は読めます。妖しい男はたいてい”あちらの方”で、
桜蔵をものにすると満足していなくなります。
しかし最後に父・柾から引越しを申し渡され、
新展開を迎えそうな予感で締めくくられています。
どうなるんだろう……
次作も楽しみです。
関係ないですが、
この本の表紙に何だかすごく惹かれます。
マヌケ面の犬。かわいいとは思いませんが、
何でこんなに気になる顔なのかしら……
*BL要素全開ですので苦手な方はご注意、です。