「花まんま」ホラーと温かさが同居 | 本の話がメインのつもり

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気まぐれに選んだ本を読みながら、何となく見つけたジャンクな菓子ばかり食べます。

花まんま/朱川 湊人

じんわり:かなしいねかなしいねかなしいね /5

ホラーテイスト:いるよいるよいるよ /5

どことなく懐かしい:あったか気分あったか気分あったか気分あったか気分 /5



朱川湊人さんの「花まんま」を読みました。

第133回の直木賞受賞作、とのことです。



『トカビの夜』

 狭い長屋のような団地で朝鮮人の兄弟は少し浮いていた。

 それでも私はたまに病弱なチェンホと遊ぶために家を訪れていた。

 チェンホが亡くなってから、団地では奇妙な事件が起きはじめ…… 


『妖精生物』

 高架下の物売りから魔法使いが作った生物だという「妖精生物」を

 買ってしまった。クラゲに似ているが、手の平に載せるとピピピと鳴いた。

 たちまちその生物の与える甘美な感覚の虜になってしまう。


『摩訶不思議』

 おっちゃんが歩道橋の階段から転がり落ちて死んだ。

 おっちゃんには内縁の妻がいたが恋人もいた。恋人が出席を

 遠慮した葬式の日、突如霊柩車が止まって動かなくなってしまった。


『花まんま』

 妹のフミ子は変わった子だった。妙に大人びていて、

 知るはずもない土地のことや、誰だか分からない人の名前をノートに

 書き付けている。問い詰めると、それは前世の記憶だと言うのだ。


『送りん婆』

 仲がよかったキヨちゃんのお父さんが血を吐いて倒れた。

 医者も匙を投げ、死ぬまでの間ただ苦しまなければならない。

 そんな中、周りから「送りん婆」と呼ばれるおばさんが呼ばれた。

『凍蝶』

 ひどい差別にあっていてずっと友達ができなかった。さみしく墓地を

 歩いているとき無縁仏の碑の前でミワさんに出会う。

 それから毎週水曜日に約束して友達のように遊んでくれるよになったが



どの短編も面白かったです。

私は短編をひとつ読み終えると集中力がリセットされがちなんですが、

この短編集は一気に読めました。


お気に入りは決めかねてしまうのですが、

「摩訶不思議」のちょっと笑える話も好きですし、

表題作の「花まんま」には涙腺を攻撃されました。


全体的にちょっとしたホラーな表現や若干のグロさもあり、

怪談のような出来事が題材にされています。

それと同時にホッとするような温かさが

じんわり伝わってくるような……


背景はどの作品も古いです。

40歳から50歳くらいの人が子どもの頃に出会った不思議な

体験を振返る形式で書かれているので、登場する子ども達は

怪獣に夢中だったり、駄菓子を食べていたり……

私は実際に知らない時代なのにノスタルジアを感じるような

描写でした。


朱川さん、最近かなり気に入っています。

少なくとも「つまらない」と思ったことがない。

非常に読みやすい作家さんです。