「虚無」また考えさせられる、法で裁けない加害者 | 本の話がメインのつもり

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気まぐれに選んだ本を読みながら、何となく見つけたジャンクな菓子ばかり食べます。

虚夢/薬丸 岳

ノンストップ読破:ワクワクワクワクワクワクワクワクワクワク /5

重いテーマ:☆☆☆ /5



以前「天使のナイフ 」を読んだ際にゆかぴょんさんから

同様におもしろかったとコメントを頂き読んでみました。

薬丸岳さんの「虚無」です。



佐和子は娘の留美を連れて雪の公園で遊んでいた。

雪ダルマをつくる留美から少し目を離した隙に

一人の男が子どもやその親を追い回し、

ナイフで12人も殺傷。

留美も命を落とし、

佐和子は背中を刺されて重症を負った。


ところがその犯人である藤崎は精神を病んでいたために

刑法三十九条によって不起訴となる。


事件から4年、三上は娘を失い、妻はPTSDにより

精神的に不安定になり離婚していた。

そして元妻・佐和子から連絡があり藤崎とすれ違ったと

知らされる。

あの大事件からたったの4年で藤崎は社会に出てきているのか、

三上は衝撃を受けた。



以前もこういう重いテーマを扱った小説を単純に「おもしろい」と

言っていいものか、と悩みましたが、

また「おもしろかった」のです。困りますね。

サラサラっと一気に読めます。


「天使のナイフ」同様、法では裁けない犯罪者への

被害者の憎しみ、葛藤が描かれています。


今回は統合失調症の犯人が12人もの人を殺傷しながら、

入院と訓練のみで社会復帰していた、という状況。

被害者である三上とその元妻・佐和子はそれを知ってしまうんです。


ゆかぴょんさんもご指摘されてましたが、

全体的な雰囲気は「天使のナイフ」に結構似ています。


三上にすっぽりと感情移入できて、

法というのはこんなやるせない状況を作りえるものなんだ

と、驚き、苛立ちすら感じます。


一方、精神を病んだとある人物からの視点でも物語が

進みます。最後にそれに気付いたときはちょっと怖かったです。

病識がない心の病を疑似体験した気がしました。


自らの狂気に気付かずに多くの人を

傷つけてしまったら、と思うとゾッとします。


いろいろと考えさせられる内容でした。



そしてやはり人物の使い方が特徴的ですね。

良くも悪くも無駄がない、これに尽きる……


登場人物たちの意外な繋がりに驚かされて

それも快感なのですが、ちょっと出来すぎた感が

残っちゃうのはどうしてかな。