ホラー: 5
存在感:
高橋克彦さんの「たまゆらり」を読みました。
『声にしてごらん』
仕事の締め切りが近付き、母親の見舞いにも
行けない。ある夜、誰もいない階下で水音がしてきた。
<おふくろか……>
『うたがい』
おふくろの一周忌がすんだ。次は父親の一周忌だ。
家内には内緒にしていたが、重い頭痛に苦しめられ、
ときどき、目を覚まして、という声をきく。
『あの子はだあれ』
仕事の関係で子どもの頃の頃の写真が必要になり、
仲間に届けてもらった。そこには見覚えのない女の子が
写っていた。
『悪魔』
高校時代の同級生と話すうちに”松島”の話になり、
ちょっと会いに行ってみることにした。だが松島と
話しているうちに段々と不愉快になってきた。
『たまゆらり』
大勢の人間がいる賑やかで広い空間には”たまゆら”が
写りこむ。それを発見してからというもの”たまゆら”の
検証に熱中した。
『ゆがみ』
写真の展覧会が成功し、さらに作品が必要になった。
魚眼レンズを覗き込みながら歩いていると、
チンドン屋が現れる。テーマ通りのいい作品が出来そうだった。
『とまどい』
パーティで声をかけられた昔の知人はあまり記憶にない人だった。
そして彼女が語る昔の自分のエピソードもところどころ記憶にない。
何か記憶違いをしているのではないか、と思ったが……
『私のたから』
アルバムが見当たらなかった。いくらかはパソコンにデータが
保存してあるが、そうでないものもある。大切なものなのに、
どこでなくしたのか。そう思っているとある事故の事を思い出した。
『幻影』
マッサージを受けているうちに不思議なものを”見た”。
見覚えのない外国の男女が何人も幻影として浮かんだのだ。
”アカシックレコード”ではないかと言われて、その幻影に夢中になる。
『怖くない』
歳をとり何も怖いものがなくなってしまったので
ホラー小説が書けない。ある日仕事場での取材を申し込まれて、
おどろおどろしいインテリアばかりの部屋を撮影された。
『隠れ里』
遠野で記憶を失っているところを保護されてから二十年、
また戻ってきた。遠野のことを調べている人々の助けを借りて、
かろうじて記憶に残っている場所をたずねてみるが……
あまり怖くなかったホラーでした。
ただ怖くなりそうな予感をたっぷり含んでいながらも
ラストでそこまで怖くならない、
ホラーのジャブ連打……かな。
毎回小説家の男の人が主役(作者?)で
怖いことに巻き込まれる、という似た展開が多いので
一話、一話の存在感が薄い。
でも怖さのツボはしっかり押さえてある感じがします。
写真に同じ女の子がぴったりと自分の後に写りこんでいたとか、
入れるはずのない道幅の路地に入り込んでいたとか、
思わずゾっと背中が寒くなりますね。
まだまだ6月ですし、ホラーもこの辺りから馴らしていけば
いいじゃないかしら、という感じの軽いお話ばかりでした。
怖いだろうな、と思って読むとやはり物足りないですが。