「見張り塔からずっと」家族が壊れる物語 | 本の話がメインのつもり

本の話がメインのつもり

気まぐれに選んだ本を読みながら、何となく見つけたジャンクな菓子ばかり食べます。

見張り塔からずっと (新潮文庫)/重松 清

怖い雰囲気:いるよいるよいるよ

隣近所が怖くなる……☆☆☆☆ /5



重松清さんの「見張り塔からずっと」を読みました。



『カラス』

 バブル期に無理をして購入したマンションの価値は

 下がり続けていた。だからそのときに転入してきた

 「あなた」は周りの住人よりも1千万も安く買ったのだ。

 住人たちの鬱屈をまともに向けられた「あなた」は…… 


『扉を開けて』

 去年越してきた男の子は私の部屋の前でサッカーを

 練習している。偶然にも私と佐和子の間に生まれ、

 死んでしまった男の子と同じ名前、同じ歳の子どもだった。

 佐和子は連日のサッカーボールの音に精神的に不安定になる。

  

『陽だまりの猫』

 悲しいことや辛いことがあるたびに《あたし》は《みどりさん》という

 人が主人公の少女マンガだと思い込むようにして乗り越えてきた。

 「わからないんだよ、おまえには」という夫・伸雄さんの口癖も

 姑の冷たい言葉も《みどりさん》はやりすごしてきた。



家や危うい家族がテーマの3編の短編集でした。


なんとも不気味な雰囲気のお話です。

人間同士のいざこざの話、なんですが、

まるで怪談でも読んでいるかのように背中が寒くなります。


『カラス』ではご近所よりも安くマンションを購入して

転入してきた一家が嫌がらせを受け、徐々に弱っていく様子が

描かれているのですが、それが何故か二人称なんです。


「あなた」と呼びかけられるように綴られた文章は

妙に不気味で臨場感がありました。


『扉を開けて』も精神的に危うい佐和子が何か

仕出かしそう、という意味で怖いです。

徐々に壊れていく佐和子とそれを静かに

支えようと勤める「私」の様子は怖さの中に

切なさが見え隠れします。


『陽だまりの猫』では主人公の中には《あたし》という自分と

もう一人《みどりさん》という自分がいて、

《あたし》が《みどりさん》を観察しているかのように

彼女の物語が進みます。


《みどりさん》が天然なのと、彼女の夫の

「亭主関白でマザコン」な言動に少しイラつきます。

他の2編とは違ってホラーっぽい雰囲気がなく、

昼ドラのような雰囲気です。


最後の話だけちょっと毛色が違う。

そして前半2編の不気味なお話の方が好み

だったりしました。