「魔王」読みました。
これは連作の中編?というのでしょうか、
視点の違う繋がった2つの物語が収録されています。
『魔王』では安藤という男の視点、
『呼吸』では安藤の弟・潤也の妻、詩織の視点で書かれています。
『魔王』
「偉そうに座ってんじゃねえぞ、てめえは王様かっつうの。ばーか」
安藤はある日電車の中で2人分の席にふんぞり返る若者に
老人が放った言葉を聞いて驚いた。
それは自分があの老人だったらそういうだろうと思っていたセリフと
全く同じだったからだ。
やがてそれは自分が思った事を他人がしゃべるという特殊な能力で
あることに気付く。
安藤は国民の注目を集め始めた独裁者の風格をもつ政治家の犬養に
不安を抱きその能力を使った行動に出ようとする。
『呼吸』
詩織は潤也と結婚して3年になった。
全くニュースなどを見ずに派遣社員として暮らし、周りはどんどんと
変わっていく。首相となった犬養が活躍し、景気も上向いているようだ。
そんな中詩織は純也のある能力に気付いた。
彼は絶対にじゃんけんに負けないのだ。
2人はその能力について実験を重ねる。
何が主題かよく分からなかったですが、面白かったです。
政治なのか、いわゆる超能力の話なのか……
出来事についての結末や理由などぼやかされている部分が
多すぎて想像するしかない。何となく不安になる雰囲気がありました。
特に政治家の犬養の存在の不気味さが際立ちます。
そして神出鬼没のバーのマスターも敵か味方かさっぱりです。
政治家・犬養のセリフや何でも考えぬく安藤の話などから
国内政治批判、アメリカや中国との関係、国民の責任感のなさへの
批判といったメッセージも汲み取れます。
政治物という見方もありなんでしょう。
どちらにウエイトがあるのか、読み手次第な印象ですね。
私は安藤と弟の潤也、それを取り巻く人々の関係がよかったです。
伊坂さんっぽい家族、友達関係の描写というか、優しい感じです。
ネタばれになるので詳しく言えませんが『魔王』と『呼吸』に
出てくる鳥のエピソードが後からじわじわきいてきます。
切なくなった(:_;)
超能力という言葉はほとんど出てきませんが、能力の地味さが
親近感わきました(笑)
同じ能力でも他の作家さんならすごく派手に演出することも
したかもしれませんが、そこがまた違ってとにかく地味。
制約も多いし、使えたからといって登場人物たちに大きく影響
してないという感じです。忘れてしまいそう(笑)
そして、あの「死神の精度」 の千葉さんも登場します。
かなりさりげなくw
でも死神だということをちゃんと主張してくれてます☆
読んだ人だけニヤニヤですね(^^)