『地下鉄にドリアンを持ち込んだ場合の罰金はいくらが妥当であろうか』

 

シンガポールは取り締まる側にとっては「罰金天国」、つまり取り締まられる側にとっては「罰金地獄」である。路上での喫煙は言うに及ばずゴミのポイ捨て、鳥へのエサやり、夜10時半以降の屋外での飲酒(以上はいずれも最高で1000ドルの罰金)、チューインガムの国内への持ち込みに至っては1万ドルの罰金だ。(ちなみに私はこの5年間シンガポールのいろんなところをジョギングしてきたがいまだにツバを吐いたランナーを見かけたことはない)

 

公共施設、とりわけ地下鉄(MRT)でもその厳しさは変わらない。

つい先日のこと、普段何気なく目にする車内表示の持ち込み禁止のイラストをよくよく見てみるとなぜかドリアンだけは罰金がないではないか。これには何か理由があるのだろうか。

 

そもそも、改札でドリアンを厳重に検問しているので地下鉄内への持ち込みはありえない前提(もし見つかれば没収されるだけでなくそれを見逃した改札の担当者の首も飛ぶ?)、つまりこの表示はドリアン愛好家に対する警告と同時にMRT従業員へ規律を促すメッセージをも含意しているのかもしれない。

それとも、MRTの罰則に関する最高機関「MRTマナー向上審議会」(異臭環境協会、全国青果団体などの有識者で構成される架空の組織)での意見集約が不調に終わり、未だ金額の一致をみていないということだろうか。

いや、金額は決まっているけどあえて公表しないことで「法外な罰金を請求されるかもしれない」と思い込ませる人間の深層心理を巧みに煽る「恐怖政治」の体現なのかもしれない。

 

では、ドリアンを地下鉄に持ち込んだ場合、本来的にいくら罰金を払うべきであろうか。誰もが納得する水準は存在するのだろうか。

この手のシミュレーションは他の罰金と比較するのが近道であろう。法律の世界で過去の判例を参照するのと同じ要領だ。

 

まず、地下鉄でタバコを吸った場合の罰金は1000ドルだ。これには1)煙で他の乗客の健康を害する、2)火事のリスク、3)吸い殻の始末、これらが罰金を構成する「期待値」と思われる。

それでは、飲食禁止の500ドルはどうであろう。1)飲食料がこぼれて他の乗客に迷惑がかかる、2)ゴミの始末、3)飲食料によっては異臭、が考えられる。

ここで注意しておきたいのはドリアンは「持ち込んだ」だけで罰金を科されるという特異性だ。

冷静に考えてみてほしい。「果物の王様」の称号にふさわしく、旬の季節には国民の購買意欲を掻き立て、シンガポール経済を下支えしている偉大なドリアンなのに交通手段が制限され島内を自由に移動することができない、、こんな理不尽なことがあるだろうか。

開業してたかが数十年しか歴史のないMRTごときに出禁を食らうドリアン(こちらは太古から存在する)はあまりに不憫ではないか。

 

さて、ドリアン持ち込みと飲食(例:カレー)した場合の周囲への影響を比べてみよう。

ドリアンの異臭が地下鉄内に蔓延する範囲はカレーの比でないだろう。ドリアンの異臭は隣の車両、いや最寄りの駅構内にまでその匂いは及ぶかもしれない。しかし想像してほしい。あなたはカレーを食べる人とドリアンを持つ乗客、いずれの隣に座りたくないであろうか?カレーはこぼされてやけどするリスクがあるがドリアンは異臭だけだ。(両方に囲まれたら悲劇だが)

 

結論として、ドリアン持ち込みの罰金は飲食禁止よりも厳しく、しかしドリアンが火事の原因とは成り得ないのでタバコよりは緩く、間をとって750ドルが妥当な線ではなかろうか。

 

以上の仮説を検証すべく、誰か実際にドリアンを地下鉄に持ち込んでくれる気概と勇気のある人はいないだろうか・・・

そうだ、ドリアン三姉妹(日バス女子の重鎮メンバー)に頼んでみよう。