より一層時代が電動化へと舵を切っている昨年誕生し、少しずつではあるものの街中で見かける機会も増えてきた2代目86&BRZ。企画とデザインはToyota、設計と生産はSubaruという役割分担や両者のキャラクターは今回も変わっていない。ただ、今回から86”GR86”と名乗るにあたりさらなるチューニングが施され、BRZから3ヶ月遅れて登場となった。


ジャーナリストの方の試乗動画や記事に触れる中で「その違いを体感するとどうなるのか」ということに強く興味を持った私は、86のレース用ベースグレードとも呼べるRCグレードを除く全8車種を乗り比べることにしたのである。86&BRZのインプレッションはさまざまな場所で目にする機会はあるが、この8車種を全部運転したキチガイなど私くらいだろう。今回は仕事で忙しかったというより、試乗車を探すのが大変だったというのが投稿が遅くなった理由である。



ここでご覧いただきたいのがボディーカラー。実はこれも投稿が遅くなった理由のひとつで、86&BRZで選べる全8色の組み合わせを見つけ出すのが大変だった。私のように全8色をなんてことは言わないが、気になるボディーカラーがある方は実物を見ることをオススメする。特に、86専用色のブライトブルーは実物を見るとかなり欲しくなります


さて、話を本題に戻そう。このクルマは正直なところ耽美的な美しさで魅了するようなクルマでもなければ座っているだけで心地いいというクルマでもない。今でこそこのスタイリングも悪くないと思っているが、デビューした当初はいろんなクルマのディテールをコラージュしたかのようなスタイリングが好きになれなかった。ただ、このクルマがモデルチェンジをして代を重ねることができたのはそのスタイリングが高く評価されたからではない。あくまで自分の両手両脚でその性能を引き出して、とことん遊べることが支持されたからである。



両車共通の特徴として、近年のSubaru車が剛性強化の一環で取り入れているインナーフレーム構造を得て強化されたボディやフロントフェンダールーフのアルミ化による軽量化が挙げられる。これらは全ての8モデルで感じられる1クラス上の安心感やたしかな走行フィールの源泉となっている。これがなかったら一部のモデルでは路面の突き上げに閉口する場面もあっただろう。


ただ、その脚周りのフィールが予想をいろいろな意味で裏切る面があり、私自身「クルマは奥が深いなぁ」と改めて思っていたほどだったのだ。



まず、86, BRZ共通の特徴として「AT車の方が脚が硬く感じる」ということが挙げられる。MT, ATの重量差は諸元上だと20kgなのだが、同じグレード同士で比較すると全てのモデルでこの傾向は一緒だった。一部のモデルでは突き上げがと思う場面もあったのだが、それは一旦全体の傾向を全て語ったところでそこに触れることにする。



つづいて「ATはステアリングのセンターが重め」という特徴。これも全てのモデルで共通している特徴だった。一般的にステアリングとサスペンションのフィールには相関関係があり、ステアリングフィールがダイレクトだと乗り心地は硬めで乗り心地を優先するとステアリングフィールがスポイルされる傾向にある。そこをどう両立するかということを私は重視しているのだが、率直に言うとそこをバランスさせているモデルは少ないことが気になった。全体的にはとてもいいクルマだと思うけれど、その点に関しては煮詰めが甘いような気がする。



そして意外だったのが「17インチと18インチの差が意外と小さい」ということ。これは86BRZのどちらにも言えることで、ホイールが小さい方がコンフォートではないかという事前の予想とは異なる結果となった。これはインチ数だけではなくタイヤの銘柄の違いも影響していると思われる。17インチモデルが履くミシュラン プライマシーHPは初代から不変なのだが、18インチモデルが履くミシュランPS4がインチアップで感じるネガを消し去っているような印象なのだ。このあたりはタイヤの設計年度の違いが影響しているのだろうか。



この前提に今回の86&BRZの差別化アイテムが絡んでくるので、それを知らずに乗ると各モデルの乗り味の差異に戸惑うことになるのである。その中でも大きいのは脚周りの構成部品の違いだろう。



1つ目がサスペンションのセットアップ。平たく言えば86が全体に硬めでさらにリアを硬めたドリフトを楽しめる仕様に対し、BRZは突き上げを抑えたセッティングでリアを柔らかくして後輪のトラクションを稼ごうとする仕様である。2つ目はリアのスタビライザーの取付方法の違い。BRZSubaru最新世代のプラットフォーム SGPで採用したボディへ直接取り付ける方法を採用するのに対し、86は初代モデル同様サブブラケットを介した固定となる。そして、3つ目が私が最も重要なファクターと考えるフロントの脚周りの違い。BRZがナックルをアルミスタビライザーを中空として軽量化を狙ったのに対し、86は鉄ナックル&中実スタビライザーと真逆のアイテムを採用しているのである。



これら3つの違いの中でなぜフロントの脚周りの違いに注目したのかというと、「FRスポーツカーの生命線であるステアリングフィールがどれだけクリアで気持ちいいのか」という点にこのフロントの脚周り、特にナックルの素材の違いが大きく影響しているように感じたからである。そこにタイヤやサスペンションのセットアップの違いが絡むとどうなるのか。結論から言えば、私の好みのステアリングフィールはGR 86RZ(18インチ)でしか得られなかった。


Subaruの主張ではアルミナックルは鉄ナックルと同等の剛性を確保しているというのだが、アルミと鉄では素材そのものの強度は約3倍異なる。剛性が高いということはそれだけ力の伝達速度が速いということだから、ステアリングを切り込んだ時の反力の伝達も86の方が早く感じられる。全てのクルマを同じコースでテストできたわけではないが、ステアリングを大きく切り込む場面で86BRZの差異は明確に感じられる。


では先程述べたMTATのステアリングフィールの差というのは、軸荷重の差による影響だ。MTATの重量差である20kgは、車検証上だとそのままフロント側に全て20kg上乗せされている。1300kg弱という車重にとって20kgなんてと思うかもしれないが、それが実際に体感するとかなりの差を生み出している。フロントのサスペンションにストローク量の多いストラット式サスペンションを採用しているから、その影響は他のクルマ以上に大きいのかもしれない。


当初はそれゆえにATのフィールの方が好みに感じていたのだが、BRZ 17インチ(Rグレード)ATに乗って考えが変わってしまった。というのも、たしかにセンター付近にはスポーツカーらしい重さが伴うのだが、ステアリングを切り込んでいくとフロントタイヤの反力がリニアに感じられなくなるのである。横方向の力が小さい領域ではATの軸荷重の大きさでアルミナックルのネガをあまり感じることがなかったのだが、その力が大きくなるとネガが途端に露呈してしまうのだ。


なので、その軸荷重が軽くなったBRZ 17インチのMTなどは「AWDSubaru車」のように軽いステアリングでFRスポーツカーに乗っているという充実感がほとんど味わえないのだ。ステアリングをダイヤルのように回したい向きにはいいのかもしれないが、クルマからのフィードバックがないというのはせっかくのスポーツカーなのにつまらない。


では、そんな脚周りに18インチタイヤを履かせるとどうなるのか。ATは前述したフロントの軸荷重増加によりセンター付近のフィールが向上するのだが、大本命であるMTになるとその軸荷重が減少することによってステアリングのリニアリティが損なわれてしまう。ミシュランPS4によって17インチ仕様ほどの味気なさは感じないのだが、ステアリングを通じて路面に触れている感覚は乏しい。


一方の86は鉄ナックルをはじめとする専用アイテムによりステアリングからのリニアリティは向上するのだが、17インチ仕様では特にリアからの突き上げの硬さが気になる場面がある。特にAT仕様はフロントの軸荷重増加+リアが硬めのサスペンションセッティングが合わさって荒れた路面ではGR yarisのように跳ねる挙動を見せる。今回のテストは試乗車の都合上86 17インチATがトップバッターだっただけに「新型はこんなに脚が硬いのか」と驚いたのだが、同じ17インチのMT仕様ではその硬さはそこまで気にならなくなった。ただし、その分ステアリングのセンター付近のフィールが乏しく感じられた。



今回のモデルチェンジにより各部の剛性が強化されたことで、クリアなステアリングフィールを得るにはフロントの鉄ナックルとミシュランPS4のグリップが必要だったということが今回の8モデル比較によって得られた結論だった。まず、86 17インチ AT車で気になっていたハーシュネスの硬さは同じAT18インチ仕様車ではそれほど気にならなかった。また、ステアリングフィールに関しては軸荷重が不利になるMT車でも18インチならば満足できるフィールが得られる。86 18インチ MT車に乗って、ATのセンターの重さがかえって不自然なように感じてきた。8617インチ仕様車にPS4を履かせれば18インチの乗り味に近づけることはできると思うが、サーキットでガンガン走るような使い方をしない限りは18インチを買って軽くカスタムを楽しむのが得策ではないかと思う。

それ以外にもパワートレインの味付けの違いも両車の違いとして挙げられるのだが、率直にいうと差異はほとんど感じなかった。それだけステアリングからの情報量の違いに私は驚いていたのだけれど、86 18インチ MT車で特別に試すことができたTrackモードではNormalモードからの違いを感じることができた。今回のエンジンは初代モデルに搭載されていた吸気音を車内に取り込むサウンドクリエイターが電子化され乗る前は大して期待していなかったのだが、Normalモードでも気分を高揚させるいい音を聴かせるところにTrackモードではビッグボアのNAらしい吼えるような音が加わってくる。このモードで走っていると、公道がちょっとしたジムカーナのように見えて、自然とスピードも上がってしまうのだった。



ただし、Trackモードにはいくつか残念な点もある。ひとつはサーキット走行を前提としたモードのため、ESC制御がカットされてしまうこと。また通常ならタコメーター左側のディスプレイはエンジンのトルクカーブや前後Gを切り替えて表示できるようになっているのに対し、Trackモードにすると水温計と油温計以外の表示は選択できなくなってしまう。ここはぜひ公道走行でも気持ちのいい音を楽しめるようにMT車にもSportモードを設定し、メーターの表示については走行モードによらず様々な表示が選べるようにしてほしい。それ以外の走りに関する不満は、86 18インチ MTに関してはほとんどないといってもいいレベルだ。



少しひねりの効いたクルマが好きな私のような人間にはこの手のクルマは直球すぎて好きになれないところもある。ただ、今回の86&BRZは以前お届けした先代の素材を使いながらも、乗った印象は別次元のレベルにまで質感が引き上げられている。それだけに刺激に乏しいBRZにガッカリさせられたのだが、私は先代 BRZ STI Sportの上質でスポーティな乗り味を忘れてはいない。その引き上げられた性能に見合う乗り味を、両車がさらに極めていくことに私は期待したい。