先週ご紹介したM6 Gran Coupeは、古典的だけど男らしい力強さをタイトなシルエットで魅せる傑作だった。
今回ご紹介するこちらも傑作だが、こちらは積極的に新しい男性像を創造しようとしている。
A7 Sportbackはルーフラインこそファストバック風だけど、ステーションワゴンをAvantと呼び続けるAudiの知恵が詰まっている。というのも
ルーフラインを絞っているのにファストバックのテールはリアガラスとともに大きく開くから、シートを倒せば下手なワゴンに匹敵するくらいのラゲッジルームが出現するのだ。
そんな自慢のラゲッジに手荷物と愛用のレザーライダース(スーツの話をしたいのに着てなかったw)を放り込んで、改めてそのエクステリアに目を向ける。A7のハイライトはファストバックのラインをスパッと切り落としたテールエンドにあると思うのだが、その潔さから連想したのは
中田英寿…ではなくて、その隣にいるThom Browneだ。そのスーツの特徴は、ここまでやるかのミニマリズム。彼のスーツに「ワンクッション」などという裾仕上げはありえない。長くてもくるぶしは露わになるし、入学式の小学生が履くようなショーツもある。
Web上で見つけたThom Browneへの インタビューによると彼のスタイルは偶然見かけた1人の男性の着こなしがルーツだというが、対するA7がテールを切り落としたのは往年のスポーツカーが取り入れたディテールへのオマージュ。
イタリア語でコーダ・トロンカと呼ばれるそれは、当時の空力理論を取り入れた闘うためのディテール。ルーツに違いはあれど、どちらもクラシカルなものに対しての憧れがあるということだ。
ただ、Thom Browneのコレクション同様このクルマは新しいことへのチャレンジを忘れていない。分かりやすい象徴が
大刷新されたインテリアだ。先々代A8が初採用したMMIと呼ばれるコンソールの集中スイッチはアイディアこそBMWのiDriveに先を越されたが、iDrive以上に多いスイッチのおかげでより直感的に操作できた。いまやエントリーモデルのA1にも形を変えて備わるそれをAudiは全て取り払い、上下2枚のタッチパネルへと置き換えてしまったのである。
私はこれを知ったときにショックを受けた。ストレスフリーな操作がこれでは運転中にできなくなってしまうと。今回のドライブ中は触ることはなかったが、操作への不安は幾分マシになった。その前に触ったA8はタッチするときの画面のクリック感が異様に重く、長い目的地を入力するのが思いやられるレベルだった。ところが今回の車両はその押し込みが控えめ。ただ、わがままを言えばLexusのリモートタッチのように触れたことを振動で伝えるデバイスが備わったほうがよほどドライバーフレンドリーだと思う。
そして、いざ乗り込んだときにもうひとつの驚きが。今回テストした55TFSI quattro S-Lineには電動のチルト&テレスコピックが備わらないのである。せっかく低いドラポジに満足してたところなのに…オーナーとなって一度セットアップを済ませれば気にならないことだと思うが、ほぼ1000万円という車両本体価格を考えるとこれくらいオプション扱いするのもどうかと思ってしまう。
さらに、私はこのクルマに乗る前から落胆していることがあった。それは、そのタッチパネルに備わる短くて醜いかたちのシフトノブの下。トランスミッションのS-tronicだ。前回のM6 Gran Coupeのときに否定的な考え方を匂わせたのは、これだけパワフルでしかも4人を快適に運ぼうとするGTカーにはDCTではなくトルコンATこそがふさわしいと思っているからだ。
そして、そのネガは走り出すと即座に露わになった。幹線道路に合流しようとアクセルを踏み増しすると、スロットル操作に過剰に反応して変速ショックに見舞われたのだ。ブレーキにしてもラフに扱うとガツンとピッチングが襲う。操作系が軽めだから、ドライバーに隙を与えてはくれないのだ。
ただ、そのことを頭に入れておけばこのクルマを操ることは苦行ではなくなる。A7のもうひとつのハイライトであるパワートレインが、このクルマをイキイキと走らせてくれるのだ。
いまひとつ馴染めない"55"という数字が意味するのは排気量ではない。簡単に言うと出力レベルに応じて与えられる数字だ。これが実際の出力とリンクしていればスッキリするのだけれど、そこがそうなっていないことがもどかしい。リンク先に記載のとおり、つまりこの変更はe-tronなどのEVのグレード名に使うことを前提にした変更なのである。
変わったのは名前だけではない。
この3.0L V6ターボが得たのはマイルドハイブリッド。スターターとオルタネーターの機能を合体させたBASが減速時のエネルギーをリチウムイオンバッテリーに貯え、55~160km/hだとコースティングも行うというのだ。多くの方が連想するモーターアシスト機能がないから、実際に走らせると和製ハイブリッドのようなフィールはない。でも、和製ハイブリッドのような眠たい走りは皆無だ。
合流した幹線道路での信号待ち。アイドリングストップで停車しながら、私の心が騒ついている。たとえ燃費に気を遣ったクルマだろうと、クルマをとことん愛する私は許される限り速く走らせていたい。
さあ、シグナルが灯った。意を決して踏み込んだスロットルにクルマが応える。ラリーを席巻したquattroの強大なトラクションを味方につけ、猛然とダッシュしてゆく。さっきまで私を追い越そうとしたメルセデスがルームミラーの中でたじろいでいるように見えた。
そんな風に意を決して走ってもうひとつ感じたのは自然なステアリングフィール。コーナリングと呼べるほどの速度でダイナミックに走ったわけではないけれど、常に軽いタッチながらEPSのネチネチしたタッチは皆無。ここまで自然な反応はオプションの4WSではないと思うのだけれど、これでそれが備わっていたら驚異のレベルと言っていい。
Audiらしい硬めのパキッとした脚まわりだけれど、必要な快適性は充分以上に備わっている。こちらもモードをdynamicに切り替えたときに硬さが変わった印象がなかったから、4WSとセットで装着される可変ダンパー付のモデルではないと思うが、運転をしている限りではこの脚回りに不満を抱かなかった。
総じてプライスに見合う造り込みに納得のA7だったが、納得できてないことが2つある。ドアトリムにつくパワーウインドウスイッチの周りの樹脂が安っぽいのと、Thom Browneのようなイメージだ。彼のコンセプトに共感はできても、下半身がたくましい(単にデブとは言いたくない…)私には彼の服が似合わないのである。







