お疲れ様です。Hatchです。


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スイスイ水曜日、いかがお過ごしでしょうか。


今日は、ふと思いついた物語をつらつらとアップしてみます。途中までだけど。

長いので、お時間ある時にお読み下さいw


特に深い意味はありません。
本当に、なんとなくね!



では、どうぞ!
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火曜日の最終電車は、椅子に座ることこそできないが、予想以上に空いていた。
座った人の大半は1日の疲れを癒すため、浅い眠りについている。
伊藤はドアのすぐ横に立ち、流れる景色とそこに重なり映り込む自らの顔を見るともなく見ていた。
頭の中では既に明日のスケジュールを思い浮かべ、やらなければいけない事とやりたい事のバランスを調整している。24時間の予定がパズルのように埋まっていく。
そこで組み上がった予定を、狂いなくこなしていく、そんな1日を過ごすことに多少の達成感を感じるときもある。
しかし、大抵の場合は自分がしていることに対する虚無感が付き纏っている。
いつまで今日のような日々が続くのだろうか。自分がやっている仕事に、どれほどの価値があるのだろうか。
「いつかBIGになる!」
人生の成功に対する大きな不安を打ち消すため、そう嘘吹いていた時期もある。
今、最終電車のドアに映り込むサラリーマンは、果たして同じセリフを口にすることができるのだろうか。

再び遠く広がる景色に視線を戻した。先の見通せない程広がる暗闇の中に、光の粒が散らばっている。
不意に、規則正しく並ぶオレンジの光の群れが伊藤の目に止まった。それは線路から少し離れた場所に建つ、ごくありふれたマンションだった。
ひとつひとつの明かりが照らすものは、それぞれの生活であり、彼らの人生の一幕でもある。いったいどれだけの人がこの街で生活しているのだろうか。ひとりひとりの人生が、今この瞬間も、同時進行している。そんな漠然としたイメージを頭の中で思い描いてみる。ありとあらゆる色の絵具を、キャンパスにぶちまけたような、酷く煩雑で、見るに耐えない絵が浮かび上がる。

くだらない想像をしたものだ。心の中で自分の幼稚な想像力を鼻で笑ったあとに、伊藤はある違和感に気付いた。
さっき目に止まったマンションの位置が、ほとんど動いていないのだ。マンションだけではない、見ていた景色全てが止まって見える。

何だこれは。
声に出そうとしたが、口が動かない。言葉は頭の中に虚しく響くだけで、発せられることはない。口以外にも伊藤の身体で自由が利く部分はなかった。伊藤自身、金縛りにあったことはないが、おそらく今の状態を金縛りというのかもしれない。もし金縛りと違う点があるとすれば、それは自分だけではなく、周りの世界も止まって見えるということだろうか。
あまりに突然の出来事に戸惑いはあるものの、不思議と恐怖は感じていなかった。なんとか身体を動かそうと試みつつ、幾つもの質問を自身に投げかける。
何が起こった、いつからこうなった、時間が止まったのか、呼吸はしなくて大丈夫なのか、夢でも見てるのか。

「いつまでこのままなのだろうか」

突然耳に飛び込んできた声に、伊藤の意識が現実に引き戻される。目の前にあるドア、そのガラスにサングラスをかけた見知らぬ男が映っている。
髪も髭も、不潔に思われない程度に伸びている。白いティーシャツの上に羽織った革のブルゾンのポケットから、煙草を取り出す。
「一緒に吸うかい」
煙草に火をつけながら、男が尋ねてくる。勿論、応えることはできない。時間はまだ止まったままだ。突然現れた男の存在に、今まで冷静だった伊藤の頭の中が混乱し始める。
「誰なんだこいつ。なんで動いているんだ。そんなつまんねえこと考えているんだろ」
伊藤から反応がないことをわかっているのか、男は話し続ける。
「どこから説明すればいいのか微妙なところなんだけどね、君は選ばれたわけよ」
男は軽い笑みを浮かべ、ゆっくりと煙草の煙を吐き出した。顔は愚か、目線すら動かすことができないこの状況では、吐き出された煙の行方を追うことはできない。しかし、煙草の煙は、時の流れとは関係なく、漂い続けているように見える。
伊藤は選ばれたという言葉の意味を考えた。喜ぶべきことなのか。今の状況を考えれば、それは決して嬉しい報せではないように思えた。
今から3年前、当時付き合っていた彼女から急に別れ話を突きつけられた記憶が蘇る。状況は全くと言っていいほど違うが、結局は悲しい報せを伝えられるのではないか、そんな思いが頭を過ぎる。
こんな時に何思い出してんだ。くそ。一体どうしちまったんだ。
今となってようやく、冷静に事態を見守り続ける自分と、この状況を緊急事態と受け止め焦る自分とが、頭の中で葛藤を始めた。
「そんなに不安がる必要ないって。別れるんじゃない、出会いだよ。で、あ、い」
男はそう言って、煙草を持っていない方の手で、伊藤の肩を叩いた。その瞬間、頭の中で火花が散ったような感覚が伊藤を襲った。目の前に見える、今となっては見慣れた景色は、一瞬のうちに真っ白になり、次の瞬間には真っ黒に染まり、闇の中に溶けて消えた。
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さあ、伊藤君の運命やいかに!!!


ただの小説好きからの投稿