私の額を舐めた猫氏は、
「お前さん、味が変わったなあ。だんだんと人間の臭みが出て来てるぜ」
と言った。
「仕方ないですよ。身体は人間なんですから」
私が手を伸ばすと、猫氏は前足で軽く叩いた。それは、我々にとって
握手のような感覚だった。
「これ!ミケ!」
祖母は、猫氏を叱った。
そして、猫氏から私が見えないように、抱き抱えた。
きっと、猫氏が私にちょっかいを出したように見えたのだろう。
「お婆さん、誤解です。猫氏は爪を出してませんし」
思念を送っても祖母には伝わらないと分かっていても、つい、やってしまう。
「ちぇっ。全然分かってないくせによ。偉そうに」
猫氏は、不貞腐れた。
「新入りの味が変わって来たってことは、そのうち、こうやって話も出来なくなるかもな。人間だってよ、子供の頃は、皆、こうやっておいら達と話が出来るんだ。
でも、どんどん、身体に蝕まれて、話せなくなる。
寂しいなあ」
「でも、お爺さんのように会話出来る人もいますよね?」
猫氏に訊いてみた。
「ああ。たまにな。爺さんみたいに、身体自体がそんな作りの者も居るんだよ。
爺さんのお袋さんも、そうだったからなあ」
猫氏が身繕いをする音が聞こえ出した。
「それは、遺伝的にそうだってことですよね?だったら、私にもその可能性があるんじゃないですか?」
そう返すと、猫氏は
「ああ!そうだな!それも、有りっちゃあ、有りだ。うん!」
猫氏は祖母の膝に乗ろうとして、祖母に又、叱られてしまった。
「なんだい、婆さんのケチ!ちょっと位、新入りを見せやがれ!」
猫氏が抗議のために、一声鳴いた。
「また章子に悪さしようってんだろ!?この野良が!そうは、させないからね!」
全く、祖母は誤解をしていた。
「お婆さん。私も猫氏が見たいです」
ウーウーと、私は祖母に訴えた。腕をバタつかせた拍子に、
私を覗き込んでいた祖母の顎を殴ってしまった。
「痛い!まあ、なんて力の強い子だい!」
「すみません、わざとじゃないんです。すみません」
私は、謝っているつもりでも、身体は泣き出してしまった。
「はっはっは!いいぞ!新入り!」
猫氏は大喜びして、我々の周りを尻尾を立てつつ歩き出した。
「ミケ!うろうろしなさんな。ややこしい!お腹でも空いたのかい?何も無いよ」
「そう言われたら、腹が減って来たぜ、婆さん。何かくれよ」
猫氏は、ニャーニャーと甘えた声を出した。
「私も、そろそろミルクが飲みたいです。お婆さん、ミルクをください」
私は更にワンワン泣くし、猫氏はニャーニャー鳴くしで、
祖母は堪らなくなったのか、大声で歌を歌い始めた。