一人、一人、と同時期に生まれた赤ん坊達は

新生児室から居なくなって行った

 

私も、祖母と母に連れられ

これから暮らして行く家へ入った

古い日本家屋で、天井は高く、用意されていたベビーベッドに寝かされた

毛布を掛けてもらったが、手足をバタつかせるので

直ぐにはだけてしまった

 

「元気がいいねえ」と、祖母は嬉しそうだったが、母は憂鬱そうだった

病院では、温度調節が行き届いていたが、この家は寒かった

ああ、今は冬なのだ、と思い出し、掛けてもらった毛布を

蹴らないように気をつけようと思った

 

襖の開く気配がして、誰か入って来た

「ああ、ただいま」祖母が言うと、うむ、だか、おお、だか

唸るように返事し、寝転がっている私に近づいて来た

その人は、のっそりと、私を覗き込む

頭部に毛のない、色黒の年配の男性だった

不機嫌そうな表情をしたいたが、オーラは優しいグリーンだった

私は、満面の笑みで挨拶をしてみた

 

「あら、怖くないのかしら、妖怪みたいな顔してるのに」

母は不思議そうに言った

「そりゃあ、お爺ちゃんなんだから、分かるんだよ」

そうか、この人が祖父になるのか

妖怪みたい、という箇所は否定しないんだな、と面白くなって又、笑った

 

「章子も機嫌いいみたいだから、あなた、抱いてごらんなさい」

祖母の言葉に、祖父は少し戸惑った風だったが

ゴツゴツした手で私を抱き上げ、ジロジロと眺めた

「そんなに、顔を近づけたら、泣くかもよ!」母の心配をよそに

祖父は観察するように私を見た

祖父の左目のエネルギーが低下して、空洞のようになっているのを感じた

ああ、祖父は、視力が弱いんだな、と了承し

彼の大きな鼻を思い切り叩いてみた

 

祖父は少し驚き、大いに笑った

そして、私を壊れ物のように、そっと抱き抱えた

「よく来た、よく来たなあ、章子」

祖父の大きな声が耳元で響いた