カタカタカタカタ。

カタカタカタカタ。

 

 



僕はキーボードを打つ。

 

カタカタカタカタ。

カタカタカタカタ。

 

文章を書くのが僕の仕事だ。

そう、僕は文字でメシを食っている。

僕の原稿は、各出版社の担当者に渡る前に、妻のチェックと編集が入る。

これが大変に厳しい。時に心を折られる。

「この表現、なんとかならない?もっと優美な感じに」

「これは響かないな。この文字じゃ感動を呼べない」

「出だしからボツ。ボツボツボツ!!」

「やり直ーし」

と、様々な戦いがあって、初めて担当さんに引き渡される。

(妻の初期編集のおかげで、担当さんからはあまり心を折られる心配がない。いや、たまに折られるが、妻ほど強烈ではない)

 

僕らの仕事は二人三脚だ。

龍神ガガの言葉やそのほかの面白い話を、文字に紡いでいく。

僕一人では決してできない。

だから、「藤子不二雄さんみたいなものですよねえ」と、言ってもらえたりする。

偉大な漫画家先生に例えられるなんて、すごく恐縮するし、もちろんまだまだ駆け出しだけれど、やはり嬉しい。

だけどもこれまで、僕らはずっと同じ部屋で仕事をしていた。

寝るのも起きるのも食事をするのも、全部自宅だった。

それでも問題はなかったのだ。

ただ、ある日、妻が言ったのである。

「新しい部屋が欲しい」と。

 

果たして、僕らは新しい部屋を借りた。

自宅の近くに借りた。

新築のオサレなデザイナーズルームだ。

 

妻は大喜びだった。

「これでたまに一人になれるぞ、うしししし」と、ほくそ笑んだ。

 

しかし。

その部屋は、今、主に僕が使っている。



ついでに言えば、神棚のお水を替えたり。
15日の今日は、お米にお塩に榊も新しくするのも、全部僕がしているのだ。


これを言うと、「タカさん。もしかしてワカさんからその部屋を奪っちゃったんじゃないの?」

と言われるが、どうか聞いて欲しい。

 

ワカさんが「やったね、部屋が手に入った!!」とそれだけで満足して、今や自宅の寝室から出てこないのだ(^^;)

仕事終わったら彼女はひたすら寝る。

マジか……。

 

「あ、タカ。あの部屋さ〜、きっかけは私だったけど、たぶんタカの仕事部屋が必要だったんだわ。

だってさ、仕事部屋あると作業はかどるでしょ?好きに使いなよ」

 

好きに使いなよって……。

言うことがサバサバ過ぎて、僕はもうなんも言えない。

 

だがしかし……

確かにここでの執筆は快適だ。



筆も乗る。

オンとオフの切り替えもできる。

ついでに昼からこっそりビールも飲め……

ないこともないが、たまにだ、うん、たまに。

 

そうか。

きっとここは僕が必要としていたのだな。

これは、スーパーベストセラーが生まれる日も近いかもしれない。

いや、いずれは、やがては、生まれないと困るなあ。

なんせ家賃が安くない。

と、いうのは冗談で、夢は大きく楽しい方がいい。

 

さあ、僕はせっせと頑張ろう。

 

カタカタカタカタ。

うん、今日も筆が乗っている……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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(令和3年3月21日 読売新聞朝刊)

 

 

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