「あ~、ヤダヤダ。なんか白髪が増えた気がする」
ワカが鏡の前で、顔をしかめた。
「苦労してるからなあ、私。いずれは真っ白なお婆さんになっちゃうのかしら?考えたくない」
そう言って、僕をチラリと見る妻。
「う・・・。で、でも40代にもなれば、しょうがないんじゃない?白髪くらい誰でも・・・」
と、話を逸らそうとする僕である。
白髪か。
ワカには悪いけど、僕にはあまり関係ない話だなあと、頭をさする。
だって、これだもの。
そもそも黒髪にさえ無縁だったんだから。
「ふん、くだらん。
なぜ人間はくだらんことに執着するのかね?
若さ、権力、金、他にも上げればキリがない!!
だが、そんな執着はやがて逃げの人生を歩むきっかけになるのだよ」
龍神ガガが不満そうに声を上げた。
ん?
「執着すると?」
「逃げの人生になる?」
僕とワカは顔を見合わせた。
そりゃ確かに龍神にすれば、人間のこだわりなんてくだらないかもしれないけど、それにしてもどういうことだろう?
これは詳しく聞きたいところだ。
ガガが説明を始める。
「考えてもみたまえ。執着というのは、失いたくない気持ちの表れだろう?
つまり、もう終わった過去にしがみつこうとする行為なのだよ」
「まあ、たしかに・・・」
僕は腕を組んで思考する。
若さとか権力とか。
時間は決して止めることはできない、生き物は確実に年を重ねてゆく。
いつまでも若くいたい、強くいたいと、それにばかりしがみつくことは、
結局は「現状維持という過去」にこだわっているだけなのだろう。
僕も含めて。
「輝いた頃を忘れたくないのはわかるが、そんな人生は振り返ってばかりになるのだよ。
これ以上失くさぬように、嫌われぬようにと回避行動ばかりをとり始めるがね」
今あるものは、いつか手放す時が来るという。
魂のレベルが上がれば、そのレベルに合わせた人間関係ができるとも教わった。
それに伴って失うものもあるってことだろう。
でも、失うことを怖れていては、ずっと新しい風は入ってこないのだ。
「生きるということは、新陳代謝と同じなのさ。ずっと同じということはない。
心も変われば生き方も変わる。だから、どんな変化があっても良いのだよ。
執着せずに、前へ進みたまえ。それを覚えておけば、おのずと楽に生きられるだろう」
過去に執着せずに、更に上を目指す。進化する。
サッカー界のレジェンド、カズこと三浦知良選手が、38歳の時に全盛期について問われた時の言葉。
「全盛期? これからだよ」
この姿勢こそが、人間を成長させるのだろうなと感じる。
ガガの言葉に僕たちが感心していると。
「どうだ。我はいいことを言うだろう」
と、ガガが続ける。
「それなのにタカは我を追い出そうとしたのだよ!
『お前言ってることわかんねーよバーカ。さっさとどっか出ていっちまえ』
と言ったのだよ!!龍神イジメなのだ!!龍神虐待だがね!!」
いやいやいやいや
やめてくださいったら
どんどん僕の悪者度合いがデカくなっていると思いながら、慌てて両手を左右に振る。
そんなこと言ってませんってば。
そんなに過去に拘っていてはイケマセンよ。
まったくハチャメチャな龍神様である。
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今日もご愛読ありがとうございました!