秋の気配が漂いつつも、まだ暑さの残る東京。
少し前のこと、僕たちは日頃の感謝を伝えに
東京大神宮へご挨拶に伺った。
濃い緑に囲まれた境内は、気持ちのいい風が吹いている。
「やっぱり神社は聖域なのだよ、実に良い気分だがね」
その風に身を任せたガガが、気持ちよさそうに言った。
「神社って龍神さんにとっても癒しスポットなんですねえ」と、僕。
「まあ、そうだがね。神社は言わば、日本人の『ありがとう』の印なのだ。そんな日本人の感謝の気持ちがつまった場所が気持ちいいのは当然だろう?」
「神社は『ありがとう』の印、ってなんかいい表現だわね」
ワカが笑って返した。
彼女が引いたおみくじは大吉。ご機嫌である。
日本にある神社の数は約8万社。
なんとこれはコンビニの数よりも多い。
日本人が神様を祀り、ありがとうの気持ちをこめた神社がそれほど多く存在するのだから、龍神が喜ぶのも当然と言えよう。
「時におまえら。龍神が日本を好むのには、実はもうひとつ大きな理由があるのだが……」
もうひとつの大きな理由?なんだろう。
「聞きたいかね?」
「そりゃもう!!どうかどうか」
僕とワカは、ははーっとひれ伏した。なんせこの龍神、おだてに弱いのだ。
しかし、神社でペコペコ頭下げて、見えない龍神に教えを乞う夫婦って一体(^^;)
「よかろう。それは外国の神話と比べてみればよくわかる。タカや、まずは読者のために、外国の神話で『労働』や『出産』はどのような位置づけになっているかを説明したまえ」
「たしか旧約聖書では・・・」
突然の無茶ぶり。僕は必死に思い出す。
旧約聖書では禁断の木の実を食べた原罪に対し、神が男には「労働」という罰を、女には「出産の苦しみ」という罰を与えたとされている。
つまり、聖書では労働も出産も神から罰として与えられたものなのだ。
「つまり外国では人間の存在自体が罪であり、労働も出産も罰として与えられたと。そういう考えでいいんでしょうか?」
「さよう。しかも神と人間には絶対的な区別がされている」
たしかにギリシャ神話でも神々の王であるゼウスが、神と人間を厳格に分けた。
そして神々は至福を享受し、人間はそれを受け取れない運命を背負ったとされている。
「しかしこの国、日本の神様はどうかね? 神様の子孫が人間であり、アマテラスが作った稲を受け継いで今でもおまえらはそれを食している」
「言われてみれば。神様も人間と同様に出産もすれば、アマテラスでさえ稲を育てるという労働をしています・・・」
神様と人間の間に、境界はない。
だから日本人にとっては、『労働』も『出産』も神様から受け継いだ喜びである。
「良い話だろう。アマテラスから受け継いだ稲を育て、秋には収穫を祭りで祝う。人と神が共に笑い、喜ぶ。そういう日本人の心根に、我々龍神が惹かれるのは当然とは思わんかね?」
実は日本の神様の概念には、かつて外国人も理解するのに苦労したようだ。
戦後、日本の事情が寄稿された「ニューヨークタイムス」や「ワシントンポスト」の記事では。
「日本の宗教は、人間の世界と神々の世界に明確な一線を引かない」
「どの森や山にも、神々が住んでいると考えている」
それが日本人を理解する上で最も難しいところのひとつだと綴られている。
「神様と共に生きる日本人。すべてのものに神が宿る、か。そういう心が龍神や神様に好かれたわけね」
ワカの言葉で思い出した。
5月のこと。この東京大神宮の境内で僕は稲を見かけた。
アマテラスの田んぼでつくられ、地上へ受け継がれた稲。
それをアマテラスが祀られる神社で今なお作られている。
神様からの贈り物を受け継いできた日本人。
「なんかそう考えると素敵ですね」
僕が笑顔で答えた瞬間。
境内に甘い香りの風が吹いた。
アマテラスが微笑んでくれたようで、嬉しかった。
すると
「ちょっとガガ。なに固まってんのよ!」
偉大なる龍神様も、最高神の前では緊張するらしい(笑)。
ちなみに僕たちの来年の手帳でも
神様ワークとして、アマテラスの教えもありますよ!
その後、ガガさんの金縛りはしばらく解けず、黒龍さんが苦労してガガを仙台に連れ帰ったそうです。
新幹線の荷台に乗せて(^^;)。
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