「おい、タカや!『チャワンムシ』の話だがね!!」






 

ガガの声はいつも唐突に降ってくる。


「え、茶碗蒸し?」


僕は読んでいた本から目線を上げて聞き返した。


「そうだ、『チャワンムシ』だよ。今、チャワンムシが龍神界で話題沸騰なのだ」


「マカロニやらおにぎりやら、どーでもいいことが話題になんのね。龍神界は」

 


ワカが柿の種をポリポリしながら言った。


「チャワンムシとはあれだろ?茶碗に羽や手足が付いているのだろ?かわいいがね!!我も見てみたいのだよ!!」


×茶碗虫

 

〇茶碗蒸し


(^_^;)

うん。絶対にガガは勘違いをしている。

 

まあ茶碗に羽が生えて飛んでいたらそれはそれで可愛いかもしれないが・・・。





「しかし、タカは我の希望をいつも無視するのだ。それが我の悩みなのだよ」


「ガガさんでも悩みはあるんですね」

 

ほんとかよ、と思いつつ僕は笑う。すると、


「当然だろ、神様にだって悩みはあるのだよ。しかし、悩みを抱える天才は人間だがね。人間は悩みの天才である!!」


「悩みの天才?」

 

僕が首を傾げて呟く。


「さよう。人間という生き物は、どんなに恵まれた環境でも悩みを探し出す。そして恵まれれば恵まれるほど、そのハードルは下がっていく。鼻くそみたいな小さな悩みに泣きわめく、くだらん


つまり・・・

 

僕は腕を組んで思考を巡らせる。

 

「恵まれれば恵まれるほど、くだらないことで悩む人が増えるということでしょうか?」


「さよう。最近は自分への返信がないだけで悩むものもいるというではないか」


「ああ、アレですか」


既読スルーという言葉がある。

 

ラインやメッセンジャーを読まれているのに返信がないということだ。

 

無視をされてるんじゃないかと、深く考える人も多いらしい。


「考えてもみたまえ」

 

ガガはグッと身を乗り出して続けた。空気が引き締まる。


「外国ではいつミサイルが撃ち込まれるかと怯えて過ごす人間もいる。明日の食い物に困る人間もいる。そんな国の人間の悩みは『今をいかにして生き抜くか』だ」


それを聞いて、僕はあることを思い出した。

 

3年前、国連での協力で南スーダンへ派遣された自衛隊員による報告会で聞いた話である。



 


南スーダンでは、政権内での抗争で国の機能が果たされていないこと。

 

高温多湿で不衛生な日々。感染症や毒蛇などの危険生物が命取りになるということ

 

そしてそんな国がアフリカをはじめ、世界にはたくさんあること・・・。



 


そんな中で生活する人々を目の当たりにすると日本という国がいかに恵まれているか。

 

なにより、『生きていることが普通』という感覚がどれほど幸せかと、胸を打たれた。


かつての日本でも戦争で空襲におびえる時代があった。

 

妻の父は生まれたばかりのころ、年の離れた姉に背負われて空襲警報の中を逃げたのだそうだ。


そんな時に既読スルーで悩む人はいない。

 

幸せになればなるほど、悩みのレベルは下がっていく・・・。

僕は組んでいた腕をほどいて姿勢を正した。


「自分が享受している幸せにいかに気付けるか。それが大事なんですね」


「その通りさ。戦争中の人間ならば、『安心して生きられる』という幸せだけで十分だった。しかし、その幸せに慣れてしまうとどんどんくだらんことが気になりだす。相手の返事ひとつで腹を立てる」


ガガはそう言うとふう、と息を吐いてから続けた。


「悩みとは、そいつの意識ひとつなのだよ。足りないもの(悩み)を探すよりも、満ちているものを見つける方が、笑顔になれる。なぜならどんな人間でも、幸せの種は持っているからだ」

 

偉大なる龍神は威風堂々と言い放った。


そして実は、このことは心理学でも証明されている。

 

アメリカのマーティン・セリグマン教授が1998年に提唱したポジティブ心理学でも、不幸の時間を数えているよりも、いかに自分が幸福なのかを考えている方が幸福感を増すと言っている。

 

どんな小さなことでも幸福を見つけることができる人はそれだけで幸せだということ。

 

当然、変な悩みを持つこともなくなる。


「ところでタカや」


「はい、なんでしょう?」


「早く我の悩みを解消するがね。茶碗虫を探してきたまえ!!」


「…茶碗虫はいません、探すだけ時間の無駄です」

そう言って、僕はまた本に目を落とした。



ガガの悩みは大きいのか?小さいのか?

 

謎である・・・。




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龍神ガガシリーズ第2弾!



初著書

 
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