「ガガさん、質問があります」
僕は生徒のようにまっすぐ手をあげて声をかける。
「なにかね？」
最近お気に入りなのか、指示棒を持ってガガが現れる。
もちろん僕には見えないけど、そんなムードだ。
「あのですね、よく『私のお役目はなんでしょう？』と聞かれるんですが、神様が人間に役目を与えることはあるんですか？」
自分の役目を知りたがる人は結構多い。
「なぜ神様が人間に役目を与えなければならんのだ？」
ガガは即答した。
「役目があるのはむしろ神様の方だがね」
「え？神様の方？」
どういうことだろう。ガガが続ける。
「神様は人間から『願いを叶えて下さい』と役目を与えられているのではないかね？」
そう言われれば確かに。
僕は腕を組んで唸る。
「人間の方が『守って下さい』という気持ちでたくさんの神様を生み出した。それが八百万の神様です」
「そうなのだよ。そんな神様がわざわざ人間に役目を与えると思うかね？」
僕たちを見据えながらガガが続ける。
「人間に与えられた役目がなにかと尋ねられれば、答えはひとつしかないがね。『やりたいことをしっかりとやれ。そして生きろ』。それだけさ」
「……」
「神様や我々龍神の願いは人間の魂の成長だ。この世で様々な体験をしてもらい、魂を磨いてもらうことだ」
「結果的にその魂が、神様や龍神のエネルギーにもなるんですもんね」
僕たちが最初に教えられたことだ。
「さよう。だから人間が望んでいないことを『役目だからやれ』なんてことは言わんがね。だって、やりたくないことじゃいやだろ？」
言われてみればそう思う。
自発的な行動だから人はやる気が出るのだ。
義務だからやれと言われたから、では前向きな気持ちになれるはずがない。
そこまで考えて、僕はハッとした。
以前、明治天皇の玄孫である竹田恒泰さんが言っていたことを思い出したのだ。
「アマテラスは『祈れ』とは命令していない」
「天皇の祈りは自発的」
古事記でもアマテラスが地上へ降りる孫のニニギに授けた言葉は
「知らせ」
という言葉のみ。
日本人を守れとも、祈れとも命じていない。
「日本人のことを知りなさい」
と言っただけ。
みなさんにも覚えがないだろうか？
友達の大変だった過去を知ることで、頑張って欲しいという気持ちが湧いたこと。
天孫ニニギも、そしてその血を引く天皇陛下も、日本人のことを知ることで愛情が湧いた。
そして自然に日本人を守りたい、祈りたいと思った。
だから、天皇陛下の祈りは自発的。
つまり、「やりたいこと」なのだ。
だからこそその祈りは尊く、強い。
東日本大震災を見舞った天皇陛下の言葉に多くの被災者が力づけられた。
なぜか？
それは、心からのお言葉だったから。
義務感から出るお言葉ではなく、この国の民を愛しているから。
日本国民は家族だから。自発的に「守りたい」「祈りたい」、そう思った心からのお言葉だったから。
だから被災者へ伝わった。
日本の最高神アマテラスの血を引く天皇陛下でさえ、お役目を与えられたわけではないのだ。
国民のことを知ったからこそ、愛情が湧き、守りたいと思った。祈りたいと思った。
それなら、僕たちが「役目ってなに？」なんて聞くのはおこがましいというものだ。
僕はそう思う。
「人間はひとりひとり前世でやり残した課題を持って生まれてくると前に聞きましたが、それを自分で探す必要はないんですね」
僕は以前ガガから教えられたことを思い出して言った。
「さよう。ちゃんと生きれば、その課題に自然と導かれていく」
僕は過去を思い返す。
あれから７年だ・・・。
東日本大震災を目の当たりにした。
故郷がなくなっていた。
不甲斐ない政治に憤慨した。
政治家ができないなら僕がやってやる、そう思った。
それが僕がしたいことだった。
心無い中傷もあった、政治の世界なんかまったく経験がないから恐怖いっぱいだった。
だけど、それがやりたいと思ったから勇気を出してやってみた。
そんなことを思い出した・・・
やりたいことをやってみる、そして生きる。
それが全ての人間に与えられた役目・・・か。
「簡単そうで、けっこう大きなお役目ですね」
僕はちょっと笑って言った。
「そうだろう？ だが、自分がやりたいことであればやる気も出るものだ。そうやって前に進もうとする人間の魂が我々は大好きだ。後押しして、一緒に成長したいのだよ」
そう言ったガガはヒュンと飛んで行った。
東の方へ。
たぶん。海に。
今日は、ガガも、祈るのだ、きっと・・・。
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