そ、そろそろ帰りたいのですが・・・・・・。
私は言います。
「まだよろしいではないか。せっかく貴船まで来たのだから、もっと楽しんでいきなされ。ほらほら、湧き水もこんなに豊富で飲み放題!!」
ご、ご厚意はありがたいのですが、もう暗くなってきましたし、私は京都の街で温かい湯豆腐の湯気を早くいただきたいのです。熱いお湯にも浸かりたいですし。
「湯豆腐の湯気など全国どこでも味わえるではないか。しかし、ここ貴船にはなかなか来れぬであろう?さあさあ、遠慮はご無用だ!!」
どうも、皆様こんばんは。ようやく旅の疲れが抜けた黒龍号です。
遡ること数日前。私は貴船神社の崇高なる龍神、タカオカミ様に大変な持て成しを受けておりました。
京都市内で次の仕事の打合せを終えたタカさんとワカさんは、その足でここ貴船神社にやって来ました。
お正月明けの神社はどことなく祭りの後のような空気が漂います。
だからなのでしょうか、参拝客の姿はまばらでほとんど私たちだけといっても良いくらいでした。夕刻にさしかかったとはいえ、大変な静けさです。
それでも、しっかり参拝をしたタカさんとワカさん。
一時間ほどいたでしょうか。陽が落ちる前に帰ろうと、タクシーを呼びます。
が、ありえないことが起こったのです。
タクシーが・・・・・・呼べない・・・・・・。
どういうわけか、どこの会社にかけどもかけども、配車の手配ができずの応え。
(うそですよね、ここ京都ですYO、観光地ですYO、しかも平日ですYO、配車の手配ができないっておかしいですYO~)
(↑私のシークレットな心の声)
あたりはどんどん暗くなります。
「困ったなあ。もうちょっと当たってみるか」
冷静なタカさんは臆することなく対処しますが、実は私はヒヤヒヤでした。
と、いうのも
「もうしばらくここにいるがよい!!久々の龍神仲間が嬉しいのだ。なにしろ私にはザックバランに話せる龍神仲間がいないのでな。さあさあ、今夜は無礼講。粋な夜を過ごそうぞ!!」
タカオカミ様が喜々として宴を始めてしまったからです(=◇=;)
噂には聞いていました。貴船の崇高な龍神、その名もタカオカミ様は大変なお力を持つ神様でいつも人の世のことを思いお忙しくしておられるということ。
あまりにそのお力が強すぎるが故に、他の神仲間との交流も多くないということ、だから気の合いそうな存在がやってくるととてもお喜びになるということ。
ですが、これほどまでとは。
「私は嬉しいぞ!!正月も終わり、参拝客も少なくなっていたからなあ。遠い仙台の地から、わざわざ会いに来てくれる人間がいるなんて幸せであるぞ。ゆっくりしていけ!! ん? はて、あのふたりは山を下りているのかね?」
タカオカミ様はタカさんとワカさんに目をやります。
そこには、来ないタクシーを待つよりも歩いて下山する方が賢明と判断したおふたりが凍てつく山風にビーブー吹かれながら、トコトコ歩いていました。
あたりは街頭ひとつありません。広がるのは無限の闇ばかり。
「ううむ、もう少し側にいて欲しいのだがな。せめて、のんびり降りておくれでないかい。よし、向かい風にして、ちょっと雪を降らせよう!!えい!!」
いけません、タカオカミ様!!
この凍り付くような寒さの中でそんなことになっては、タカさんとワカさんが風邪をひいてしまいます!!
私は必死でタカオカミ様を止めました。
「そうか、やはりダメか。ううむ、名残惜しいが仕方がない。今度はもっと早い時間に会いに来てほしいものだ。私は寂しがり屋なのだよ、恥ずかしくて大きな声では言えぬが、参拝客が少なくなるとなんだか切なくなってしまうのだ」
ため息を吐くタカオカミ様がなんとなくイジらしく思えてきました。
なるほど。お気持ちお察しいたします。
次回はゆっくり時間を取って参りますので、今宵はどうかご勘弁を。
「承知いたした。だが、黒龍とやら。お主は実に優秀な龍神だ。真面目で礼儀正しく、言葉遣いも所作も美しい。私はお主が気に入った。しばらく貴船に下宿というのはどうかな? 今なら家賃もかなり安くてお得なのだが如何なものだ?」
いえいえ、私は東の龍神。西に拠点を置くなんて考えたこともありません。しかも、下宿って・・・・・・。
あ、タカさん、頑張ってください!!駅はもうすぐ、もうすぐです!!
そしてようやく辿り着いた無人の貴船駅。
タカオカミ様のお茶目ないたずらに翻弄されること一時間、やっとの思いで小さな電車に乗りこむとタカさん達は大きく息を吐きました。
ホ。よかった。
駅に着いたならもう大丈夫です。
あとは自分達で華やかな京の街へと戻れるでしょう。温かい湯豆腐を食べましょう。熱いお風呂に浸かりましょう。タカさんワカさん、お疲れ様でした。
しかし・・・・・・。
「これこれ、黒龍や。お主はまだ帰るでないぞ!!私が管理するこの山の水で、うまい抹茶を入れてやるぞよ!!」
私はそれからしばらく、緑色に変色しそうなほど美味しい抹茶をいただきました。
そして抹茶をいただきながら、私はぼんやりと思い出したのです。
貴船に向かってから、ガガさんの気配が消えていたことを。ガガさんは苦手なことから平気で逃げ・・・い、いえいえちゃんと取捨選択する龍神であることを。
「決まっているではないか。我はタカオカミ恐怖症なのだよ!! 気に入られるとなかなか離してくれんのだ!! 上司とはいえ捕まりたくないがね。黒龍、ご苦労だったがね」
どこからか小さく囁くガガさんの声が聞こえました。
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今日もご愛読ありがとうございました!!