僕たちは長い階段を登っている。

長く・・・そして急な・・・


「人間はめんどうな生き物だがね。いちいち足で登らなきゃならんのだから。我々龍神はひとっ飛びだがね」


ガガの声が飛んでくる。

いや、龍神自体が飛んでるんだから「降ってくる」が正解か?


「しかたないでしょ!人間は飛べないんだから!!」


不毛とも思えるが、そんな僕たちがワイワイ賑やかに登っているのは


 


宮城県塩竃市に鎮座する、鹽竈神社。

東北鎮護・陸奥国一之宮として古くから多くの人々の崇敬を集めてきた、まさに由緒正しき神社である。


石段を登りきると拝殿に向かって歩を進めた。

六月にしては涼しい風が吹いているが、額には汗がにじむ。


「随身門」「唐門」と呼ばれる大きな赤い門をくぐると

 


 


鮮やかな朱色の立派な拝殿が目に飛び込んでくる。

この拝殿は『左宮』『右宮』と拝殿がふたつあるのが特徴だ。


「いや~、いつ来てもキレイな神社だわ。石段登った甲斐あるよね」


と、満足そうなワカ。


「おい。おまえら」


ガガの声が境内に響く。とは言え、聞こえるのは通訳をするワカの声なんだけど。


「はい、なんでしょう?」

僕はガガに聞き返す。


「正面の拝殿にはどんな神様がおるか知っとるのか?」


「当然!左宮に『タケミカヅチ』。右宮に『フツヌシ』」

ワカ、即答。早っ。


「どちらも天孫降臨の神話で活躍した神様ですよね?」

古事記の知識はちゃんと勉強しているぜと僕もアピール。

「さよう。では、『左宮』と『右宮』、それぞれどちらが格上か知っとるかね?」


「え?神様にも上下関係あるんですか?マジ?」


僕はちょっとのけ反った。

はたから見たら見えない空間にしゃべりながらのけ反る、さぞ微妙なセント君似の変人に違いない。


「日本人は自然と共に生きてきた。だから神社を建てる時も場所や向きに注意したのだ」


「というと?」


「神社はどちらを向いておるかね?」

方向を聞いているのだろうか。僕はちょっと考えて答える。


「えっと。多くは南向きのようです。実際この拝殿も南を向いてます」


「さよう。ならば太陽はどちらから上がるかね?」


「え・・・っと・・・」

僕が考えていると。

 





「東だから。拝殿で言えば左側から太陽が昇って、右側に沈んでいく!」

ワカが元気に答える。

こういう計算は早い。何故だ!?道は憶えられない生粋の方向音痴なのに!!


「さよう。では鹽竈神社のように『左宮』『右宮』が分かれておる場合はどうかね」

 





ひらめき電球

「なるほど!太陽の昇る『左宮』の方が格の高い神様になるんですね!」


「さよう。だから神棚で神札を祀るときも左側に最も大切な氏神神社。そして崇敬神社を右側にするのだ。住んどる土地を守ってくれる神様をまずは第一に、ということだがね」


「でもですよ、じゃあなんで主祭神であるシオツチが祀られる別宮は西を向いてるんですか?」




「おまえ、バカかね!?」

ガガの雷のような声が鳴り響く。

響いたのはもちろん妻の声。


「シオツチは海の導きの神様だがね!」


「あっ!そっか。海か。海の方向を向いてるんですね」


「参拝者が海の方向(東)を向いて参拝できるようにわざわざシオツチの別宮だけ西を向けたのだ。なんと言っても別宮というのは特別、言わばスペシャルだからな」


「へえ。やっぱ日本人の知恵とこだわりはスゴイね。こんな神社の配置にまで神話の世界が広がってるんだから」

参ったなあとワカがため息をついた。


ここ東北にある鹽竈神社でもそうなのだから、全国の神社にはもっともっと大きな意味を潜める神社があるに違いない。

実に興味深い。


「ま、おまえらまだまだ勉強だがね。どんどん良い出会いをして学びたまえ。我は日焼けしたいから太陽に当たってくるがね」

そう言うとガガはヒュンと飛び去った。

これから先、どんな驚きに出会えるのだろう。想像するとワクワクしてくる。


ガガが好きな太陽は高く、まだ見ぬこの夏の出会いを一足早く祝ってくれているような気がした。

夏が来る。



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