「お電話ありがとうございます。志賀野出版です。」
受付担当の声が耳に響く。
「お忙しいところ失礼します。私、葵と申しますが佐山さん
いらっしゃいますか?」
蔵崎さんからの連絡は行ってる筈。
「佐山ですね、少々お待ち下さい」
待ってる間の保留音は『カノン』好きな曲だ。
「お待たせ致しました、佐山です」久々聞いた彼女の声。
まさか仕事で聞くとは思ってもいなかっただけに新鮮だった。
「東院出版の蔵崎から話しをお聞きしてます。葵です」
一瞬、微妙な間が出来る…。
「葵先生ですか?ご連絡頂きましてありがとうございます」
なんとも仕事に律義な彼女。
「お話をお聞きしたいので、一度お会いできませんか?」
彼女としての莉乃に会いたいんじゃなく、志賀野出版の佐山さんとして
会いたいと云う気持ちがその時はあった。
彼女もまた電話の中では、完全仕事モードでそれは言葉の一つ一つから
汲み取れることだった。
ボクが待ち合わせ場所に指定したのはあの河川敷だった。
ここで彼女と出逢い、恋をした。
彼女が出版社に勤めてるって知った時にある意味覚悟はしていた。
いつか仕事で絡む日が来るんじゃないかって…。
でも実際そんな日が来るとはね…。
何気に振り返ると黒のスーツ姿の彼女がボクに向かって歩いてきてた。
目が合い、お互い久しぶりに顔を見た…。
彼女の顔は一瞬で笑顔になる。でもその笑顔は彼氏に向けた笑顔ではなく
『葵 悠』に向けた笑顔だとすぐに彼女の行動で分かった。
「葵先生、お待たせしまして申し訳ございません」そう言うと、
「私、志賀野出版の佐山と申します」名刺を出し挨拶してきた。
「初めまして、葵です」仕事での名前で会ったのは初だったしね。
河川敷の階段に腰を下ろし本題に入った。
「蔵崎の方から一通り話は聞いてますが、詳細についてはお聞きしてません」
そう言うと、彼女は持ってきた資料の中から例の写真集を取り出し
話し始めた。
今回のターゲットに選んだ理由、仕事に対する気持ち、真剣な眼差しが
やる気に満ちていた。
彼女に会うのはあの丘で別れたっきりだった。
あの後、彼女が何を考え、どう行動して来たかは、彼女の顔を見れば分かる。
一つ一つが大切な時間と云う財産に感じた。
彼女はまだまだ業界の中ではひよっこ同然の駆け出しだろう。
でも、彼女は蔵崎さんの言うとおり、自分の手足で仕事を
こなすタイプ。
前へ前へ、一歩一歩を確実に歩む姿は確かに熱かった。
今回の事で彼女は編集マンとして何を掴み、何を得たのだろう。
きっと本人にとっては空回りに感じてるって思うかもしれない。
でも空回りこそ大事だと思うんだ。空回りはやる人間しか経験できない。
やらない人間には到底分らない域。
「…というのが、今回の依頼内容となりますが、ご質問があれば…」
彼女の説明が終わった瞬間、ボクは彼女に聞いてみた。
「佐山さん、この空。何色に見えますか?」
唐突な質問に対し彼女の答えは「白に見えます」即座に答えた。
ボクは空を見上げ「しろ…ですか」だって青空だったんだよ。
「はい、白です。葵先生は何色に見えますか?」逆に質問返って来た。
ボクは空を見上げ考えた。
(なぜ故のしろ?いつもの莉乃なら普通に青だな…ケド佐山さん的にしろ?)
そんなことを考えながらもボクの答えは「うすい黄色…かな」
「うすい黄色…ですか…」彼女もまた何かを考えてる様子だった。
空を見上げたまま、彼女が話し始めた。
「私が白色と思ったのは、あの雲を見て言ったんです」
雲に向かって指を指す。
「先生があの青空なら私はあの小さな雲。雲ひとつない青空は確かにいいです。
でも、そこに小さいながらも雲ひとつあればより一層青空が引き立ちます。
だから私はそんな雲になりたいと、先生の写真集と出逢った時感じました。
そう思えたからこそ、先生と仕事がしたいと思いました」
彼女らしいって言えばらしいね。
ボクも空を見上げながら話し始めた。
「私がうすい黄色と思ったのは、あの月を見て言ったんです」
真昼に出る月に向かって指を指す。
「真昼に見える空の景色はいつだって青空や雲の存在です。
青空自体の形は変わりませんが、雲の形が変われば
青空の見え方も変わります。
同様に、そこに月が加われば暑い空でも涼しくなります。
佐山さんは小さな雲って言いましたが、雲はいつだって変化し続けます。
変わることの大切さをあの雲は、この広い青空の中で得たんだと思うんです」
彼女は空を見上げたまま何も言わなかった。
「佐山さん、今回の件お引き受けいたします」
空を見上げながら言うと、
視線の先を空からボクに移して「ありがとうございます」と頭を下げた。
「泣いてちゃせっかくの空がにじんで見えますよ」そう言うと、
「なぜ泣いてるって分かったんですか?」
「ボクの彼女に似てるからかなぁって思っただけですよぉ」
彼女は涙を拭かずに顔を上げ空を見上げ言う。
「がんばります」
彼女の横顔は初めてこの河川敷で見た泣き顔より何倍も輝いていた。
受付担当の声が耳に響く。
「お忙しいところ失礼します。私、葵と申しますが佐山さん
いらっしゃいますか?」
蔵崎さんからの連絡は行ってる筈。
「佐山ですね、少々お待ち下さい」
待ってる間の保留音は『カノン』好きな曲だ。
「お待たせ致しました、佐山です」久々聞いた彼女の声。
まさか仕事で聞くとは思ってもいなかっただけに新鮮だった。
「東院出版の蔵崎から話しをお聞きしてます。葵です」
一瞬、微妙な間が出来る…。
「葵先生ですか?ご連絡頂きましてありがとうございます」
なんとも仕事に律義な彼女。
「お話をお聞きしたいので、一度お会いできませんか?」
彼女としての莉乃に会いたいんじゃなく、志賀野出版の佐山さんとして
会いたいと云う気持ちがその時はあった。
彼女もまた電話の中では、完全仕事モードでそれは言葉の一つ一つから
汲み取れることだった。
ボクが待ち合わせ場所に指定したのはあの河川敷だった。
ここで彼女と出逢い、恋をした。
彼女が出版社に勤めてるって知った時にある意味覚悟はしていた。
いつか仕事で絡む日が来るんじゃないかって…。
でも実際そんな日が来るとはね…。
何気に振り返ると黒のスーツ姿の彼女がボクに向かって歩いてきてた。
目が合い、お互い久しぶりに顔を見た…。
彼女の顔は一瞬で笑顔になる。でもその笑顔は彼氏に向けた笑顔ではなく
『葵 悠』に向けた笑顔だとすぐに彼女の行動で分かった。
「葵先生、お待たせしまして申し訳ございません」そう言うと、
「私、志賀野出版の佐山と申します」名刺を出し挨拶してきた。
「初めまして、葵です」仕事での名前で会ったのは初だったしね。
河川敷の階段に腰を下ろし本題に入った。
「蔵崎の方から一通り話は聞いてますが、詳細についてはお聞きしてません」
そう言うと、彼女は持ってきた資料の中から例の写真集を取り出し
話し始めた。
今回のターゲットに選んだ理由、仕事に対する気持ち、真剣な眼差しが
やる気に満ちていた。
彼女に会うのはあの丘で別れたっきりだった。
あの後、彼女が何を考え、どう行動して来たかは、彼女の顔を見れば分かる。
一つ一つが大切な時間と云う財産に感じた。
彼女はまだまだ業界の中ではひよっこ同然の駆け出しだろう。
でも、彼女は蔵崎さんの言うとおり、自分の手足で仕事を
こなすタイプ。
前へ前へ、一歩一歩を確実に歩む姿は確かに熱かった。
今回の事で彼女は編集マンとして何を掴み、何を得たのだろう。
きっと本人にとっては空回りに感じてるって思うかもしれない。
でも空回りこそ大事だと思うんだ。空回りはやる人間しか経験できない。
やらない人間には到底分らない域。
「…というのが、今回の依頼内容となりますが、ご質問があれば…」
彼女の説明が終わった瞬間、ボクは彼女に聞いてみた。
「佐山さん、この空。何色に見えますか?」
唐突な質問に対し彼女の答えは「白に見えます」即座に答えた。
ボクは空を見上げ「しろ…ですか」だって青空だったんだよ。
「はい、白です。葵先生は何色に見えますか?」逆に質問返って来た。
ボクは空を見上げ考えた。
(なぜ故のしろ?いつもの莉乃なら普通に青だな…ケド佐山さん的にしろ?)
そんなことを考えながらもボクの答えは「うすい黄色…かな」
「うすい黄色…ですか…」彼女もまた何かを考えてる様子だった。
空を見上げたまま、彼女が話し始めた。
「私が白色と思ったのは、あの雲を見て言ったんです」
雲に向かって指を指す。
「先生があの青空なら私はあの小さな雲。雲ひとつない青空は確かにいいです。
でも、そこに小さいながらも雲ひとつあればより一層青空が引き立ちます。
だから私はそんな雲になりたいと、先生の写真集と出逢った時感じました。
そう思えたからこそ、先生と仕事がしたいと思いました」
彼女らしいって言えばらしいね。
ボクも空を見上げながら話し始めた。
「私がうすい黄色と思ったのは、あの月を見て言ったんです」
真昼に出る月に向かって指を指す。
「真昼に見える空の景色はいつだって青空や雲の存在です。
青空自体の形は変わりませんが、雲の形が変われば
青空の見え方も変わります。
同様に、そこに月が加われば暑い空でも涼しくなります。
佐山さんは小さな雲って言いましたが、雲はいつだって変化し続けます。
変わることの大切さをあの雲は、この広い青空の中で得たんだと思うんです」
彼女は空を見上げたまま何も言わなかった。
「佐山さん、今回の件お引き受けいたします」
空を見上げながら言うと、
視線の先を空からボクに移して「ありがとうございます」と頭を下げた。
「泣いてちゃせっかくの空がにじんで見えますよ」そう言うと、
「なぜ泣いてるって分かったんですか?」
「ボクの彼女に似てるからかなぁって思っただけですよぉ」
彼女は涙を拭かずに顔を上げ空を見上げ言う。
「がんばります」
彼女の横顔は初めてこの河川敷で見た泣き顔より何倍も輝いていた。