私たちの住む町に小高い丘がある。ちょっとした遊技場になってて

週末の晴れた日には家族連れの楽しい声が響く。

空を塞ぐものがないから、夜には満面の星空が360度グルッと見える。

入社してすぐのころは、休みの度にここへ来ては時間を潰したもんだ。

最近は仕事でバタバタしてて、ここへ来る時間もなかった。

お久だったけど、あの頃見ていた空がココにはあった。

周りを見ると、2歳くらいの女の子がお父さんに遊んでもらってて
かわいい笑顔で走り寄る。

小さいうちだけだよね…。お父さんに呼ばれて笑顔で近くまでいくの。

大人になるにつれ、お父さんの事がうざったくなったり、そこまで気にしなく
なるのは…。いつからだろう…『大人』って格付けされるようになったのは。

そんなことを考えてると私の目の前に悠がいた。


「おつかれさまぁ」悠はいつものように笑顔で声掛ける。

「ハイ、おつかれチャン」私もいつものように笑顔で返す。


「話ってなに?」いきなり本題ついてきた悠に「まぁ座って」と返す。


私は本屋で買った一冊の写真集を悠に見せながら言った。

「あのね…取材用のコメントに協力してほしいの」

その写真集は悠の写真集だった。

悠は「正式なアポ?」って私に聞いた…

私も「うん…いや、はい」って悠に言った…

少しの間、悠は黙って周りの景色に目をやり考えてた。

私の中では、悠ならすぐに「いいよ」って笑顔を期待してたんだけど
それはすぐに甘い考えだってことを思い知らされた…


「おれが想いを伝えるのはこの中だけなんだゎ…(手にした写真集を指さす)

 正式なアポなら先ず、おれの本を扱う出版社の担当に話し通してからが

 通常なはず。だから今ここで聞いた話は聞かなかったことにする」


依頼書のことでここ数日の私はいっぱいいっぱいになってて
つい余計なひと言が私の口をついて出た…

「そんな堅いこと言わずにいいじゃん…私にとっては大事な仕事なんだよ

 今までだって仕事手伝ってくれたじゃん」


「大事な仕事だから手伝って欲しいんじゃないんだろ!追い込み掛けられて

 しんどいからって甘えんな!追われて落ちるほど莉乃のやってる仕事は

 単純じゃないんだぞ…。おれは仕事に対しては一切の妥協はしない。

 それは仕事だけじゃなく誰に対してもそうしてきた。

 取材内容がなんであれ、仕事を甘く見てる莉乃に答えることはできない」


そう言うと、悠は写真集を私に手渡しその場を離れていった…。


まさかまさかのお怒りモード…私の余計なひと言が招いた結果が手渡された
写真集にあるように思えてならなかった…

私の頬に涙がつたうのが分かった…

悠が怒ってまでも私に伝えようとしてくれたその想いをこの時ばかりは
受け止めることが出来なかった。


すると、さっき見た2歳の女の子が私に自分の持っていたハンカチを出すと

「泣かないで…」小さい手に優しさがあって、涙が余計に溢れてきた…

私はそのハンカチを握りしめたまま女の子に「ありがとう」って言うと、

「うん、いいよ」って言ってお父さんの所へ戻って行った。


「ねぇパパ…おねえちゃんなんで泣いてるの?」と聞くと、

「大人になるとね、色々大変なことがあるんだよ」と子供に言うと、

また私の所に来て私の頭に手を乗せると「泣かないで」って

頭を『トントン』してくれた…


いつからだろう…大人になったのは…。