ブナの森に聴く
私の住む東北地方には、ブナの原生林そして世界自然遺産
で有名な白神山地がある。そのブナについてドイツのペータ
ー・ヴォールレーベンはその著書『樹木たちの知られざる生
活~森林管理者の聴いた森の声』の中で「ブナの木は仲間意
識が強く、お互いに養分を分け合う。弱った木を見捨てない」
「樹木には驚くべき能力と社会性がある」と言っている。今
までの既成概念では植物の世界は競争社会で、弱い木、病気
になった木は誰にも助けてもらえず、病虫害の攻撃で衰弱し
枯れてしまい、その空間と光は他の木に奪い取られてしまう、
というのが常識だった。
しかしドイツのブナの原生林では違っていた。一本一本の
木同士が情報伝達を行っている。それは地中の菌類(きのこ
の仲間)が根と根の間に入り込んで、インターネットの光フ
ァイバーのような役割を担い、細い菌糸が縦横に走り、想像
を絶するほどの密なネットワークを築き上げている。木と木
が菌類を通してお互いに養分を分かち合っている。
もしブナの原生林で弱い木が次々枯れていくと、林がまば
らになって、その空間に光や風が直接入り込み、森林特有の
湿った冷たい空気が失われてしまう。そんな空間が所々にで
きると、今まで元気だった木も病害虫の被害を受け、時には
大風で倒れてしまう。
しかし丈夫な木、病気になった木などが助け合って、いろ
んな木が密集していれば、強風がきてもみんなで集まって風
を避けることができる。このようにブナの森は無条件で助け
合っている。
ただし人間の手で植林された中央ヨーロッパの針葉樹など
の林ではそうはいかない。人工林では地中のネットワークが
広げられないらしい。
私は今まで3回ほど白神山地に行き有名なマザーツリー
(樹齢約400年)に触れてきた。今度もう一度行って、天然
の森の声を聴いてみたい。