【BL小説】渋谷サイドストーリー(0001)
「ねーねーねーねー、ちょっとでいいからさ?
ね?お願い。俺の一生のお願い!」
百戦錬磨、俺のナンパライフに不可能の文字はナイッ!!
……と、自負していた俺様だったが
今日のターゲットは手強かった。
百戦錬磨な俺のとっておきの流し目を送っても、駄目。
目の前で両手を合わせて拝み倒しても、駄目。
しつこくしても、駄目。
諦めたフリしても、まったく駄目。
土下座してみ……るわけはない。流石にそこまでは落ちていない。
「チッ……感じ悪ぃー」
見るからに『軽そうな女の子、はじめました☆』
そんな感じの子だったから声をかけたのに、完っっっ全に無視された。
ガッツリ盛ったまつ毛に、ゴテゴテに盛った金髪。
下手したらパンツでも見えるんじゃねぇかってくらいの
短いスカートから見えたすらっとした細めの真っ白な太腿。
そんな感じなのに、まるでギャルっぽくないどことなく初々しい感じの子。
こんな美味しそうな獲物に声をかけないバカは居ない。
この子なら簡単に堕ちる!
……って思ったんだけれどナぁ。
「あーぁ、つまんねー」
ピッ、とタスポを使って適当な銘柄の煙草を買うと、銀紙を破って早速一本銜え、
自販機の隣の段差にどっかりと腰を下ろすと、ふて寝ならぬふて一服をするために
ショルダーバッグの中身をゴソゴソと漁った。
「……やべー、ライターどっかに置き忘れてんじゃん」
あまりの不運の連鎖に頭を抱え込むと、深々と溜息をついた。
「あー、…今日の俺はついてねぇー。
5人と浮気してんのがバレて、家おん出されるし、
ライターねぇし、ってかマジライターねぇし!!!」
銜えていた火のついてない煙草をへし折ると、
ヤケクソ気味に人でごった返した交差点へと放り投げてみる。
「……おー、イイ感じ、イイ感じ。お、ナイスヒット!って、ヤバッ!!」
見事、ヒットした『ターゲット』……。
まだ若い感じの神経質そうな黒髪のスーツ姿の男が迷惑そうな顔をして周囲を見まわした。
俺は見つかるまいと、持っている鞄で顔を隠してそっぽを向く。
俺の行動がバレバレだって?
それが目的だ。
バカを相手にする程ヒマには見えない奴は、
アホっぽく振る舞えば振る舞う程、絶対につっかかって来ない。
案の定、男はこちらを睨むように一瞥した後、雑踏の中に消えて行った。
「うーっし、ちょっくら気分回復ってな」
ソフトケースの煙草を鞄の中に雑に突っ込むと、伸びをするついでに立ち上がった。
――……ザワッ
「ん?」
急に右方向の人たちの雰囲気が変わったのに気付いてそっちを見る。
ザァアァァァァァァアァァァアアアア――――ッ!!
一秒遅かった。
最近の天気ってどーなってんのよ。いやもうマジで。
ゲリラさんな豪雨が一瞬で過ぎ去った後、
すっかり濡れねずみな状態になってしまった俺は、
もはや開き直って、同じくぐっしょりと濡れた鞄へと手を突っ込む。
こんな時は一服しなくちゃやってらん…ね……
「ッああああああああ!!!」
ライターをどこかで失くしたのを、また忘れていた。
――今日は厄日だ。
もう、いい。帰ろう。今日はどこかに帰ろう。
帰る家ねーけど。
そう思って鞄をかけ直すと、
交差点へと向かって歩き始めた。
信号が青になって、先頭の奴らが歩き始める。
俺もその波に乗って、髪から雨水をしたたらせながらのろのろと移動し始める。
――ッドン!!
「あ、すみませっ…」
急な衝撃と共に可愛らしい声が響いた。
「あ、あの、ええっと、…あ、ご、ごめんなさい!!」
――訂正。
今日は厄日なんかじゃなかった。
「あ?ああ、いや……」
大丈夫。
そう言いかけた時に気付いた。
そう、俺にぶつかって来たのは、先程の『つれない女の子』だった。
「あ、い…っ、イテテテテテテテ、いってーマジ骨折れたかも」
今時こんなアホな芝居にひっかかる奴は居ないとは分かっていても、
彼女の気を引くには十分だと思って、こん身の演技で右腕を抱え込んだ。
「へっ!?……え、えっ、ええっ、ど、どうしよう。ご、ごめんなさい。本当に…」
そこまで言いかけた彼女は、急に怯えた様な表情になって後方を振り向いた。
「ほ、ほんとにごめんなさい。あの、あの……、っごめんなさい!!」
こちらを再度見た彼女は、気が気ではないらしく、
俺が何かを言い返す間もなく、再び詫びの言葉を口にすると
その場から全力疾走で去ってしまった。
……なんだったのだろう?
「ってか、足速ぇなヲイ。
もう見えねぇよ…」
溜息交じりに再び歩き出そうとした所で、何かが視界の端に引っ掛かった。
「ん?」
屈んで、学生証らしき物体を拾い上げる。
「木崎……要、18歳……。
性別…、……、……」
一瞬、我が目を疑った。
18歳?18だって?あの子が!?
ってか、ちょっと、待て、俺……
何かもっとすんっっっげー、ダイジな事を全力で見なかった事にしてねぇか?
「……性別、男……」
……俺の精神キャパオーバー。
――パッパー!!パッ、パッ、ッパーー!!
急にけたたましいクラクションの音が鳴り響いた。
ハッと我に返ると、いつの間にか信号は赤に変わっており、
慌てて歩道へと引き返す。
……さっきの子、どう見ても中学生くらいにしか見えなかったぞ?
ってか、男?
そんなわけがない…と思って安全な歩道へと戻った俺は
学生証に載っている顔写真と先程の『女の子』の顔を思い出して
かなりじっくりと脳内で比べてみた。
……あ、ヤバッ。マジで本人だワ。
百戦錬磨な、女の子のビフォーアフターを数えきれない程見て来た俺なら見間違いなし!
「へぇ…貴領学園か。
あ、住んでるとこめっちゃ近いじゃん。
俺様って親切だらかなぁ、とりあえず……。
ま、届けてやるかぁ」
何だか面白い事になりそうな予感がする。
そんな気がして、右手に持った学生証をヒラヒラさせながら、
再び青になった交差点を歩き始める。
――ドンッ!
あまりにも妄想に意識を追いやっていたためか、再び人と正面衝突をした。
「あ、ヤベっ……」
今日は変な日だ。
さっきは女装した野郎にぶつかり、今度はさっき煙草をぶつけた『ターゲット』にぶつかった。
「どうもー」
ニッコリと愛想笑いを浮かべてススススとその場を若干駆け気味に離れる。
――その男が、俺が持つ学生証へと一瞬視線をやったのには全く気が付つく事はなかった。
【 -つづく- 】
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