【BL小説】おふざけの代償(1)




~プロローグ~



『――お金持ちのパパ、募集中☆』


それは、ほんの少しの悪戯心と好奇心
そしてその場のノリで行った、浅はか過ぎる行動だった。



――3日前


授業が全て終わり、人の姿もまばらになった、とある学園の教室。

一番後ろの窓際、木崎要(きさきかなめ)の席。
つまりは俺の席なのだけれど
そこにいつもの悪友の面子が揃っていた。


「なぁ、本当にひっかかる馬鹿…居るのかな?」


「さぁ?やってみないとわからないだろ?」


俺の左右からスマホを覗き込んでいる悪友の2人
沢川陸(さわかわりく)と岬智弘(みさきともひろ)が顔を合わせてニヤリと笑った。


「で、さ…、本当にメールとか来たらどうするんだよ?」


出会い系サイトで金持ちそうな奴を見つけて
女装した俺が金だけを巻き上げて逃げる。
そんな悪戯を思い付いたのが、つい1時間ほど前。


女装してもバレなさそうな容姿に生まれた事を、これ程までに呪った事はなかった。


気分が重い。
手にしているスマホが10キロ程の鉄の塊の様に思えて来る。


出会い系サイトの登録画面を表示させたまま
左右の悪友の顔を交互に見やって溜息をついた。

そんな俺の肩をポンポンと軽く叩き、陸が笑った。


「ああ?そんなの決まってるじゃん。お前の顔ならバレないって。
 もらうもんだけ貰ってさ、逃げちゃえば良くねぇ?」


「貰う物って……」


実際にこのイタズラを実行するのは俺一人。

普段ならどのようなネタでも便乗をして悪ふざけをする俺だけれど、
なにしろ今回は『ただの悪戯』で済むとは思えない計画だ。


本当に大丈夫なのか?

そんな不安な疑問が脳裏をよぎり、プロフの登録の画面で暫く指が止まってしまう。


「大丈夫、大丈夫。
 向こうだって警察に行かれたら困るんだからさ、
 深追いはしてこないだろっての。安心しろよ。」


ほら、さっさとやっちまおうぜ?と俺を急かすように陸が軽く肩を小突いた。


「まぁ、それはそうなんだけれど……
 本当に男だってバレないかな?」


「要ちゃん、そんな心配ばかりしてどーすんの?
 盛り下がるような事、言うなって」


陸はヤレヤレと大げさに溜息をつくと、
説得する様に右手で再度ポンポンと肩を叩いてきた。


「南ちゃんだって協力してくれるって言ってんだからさ?
 メイクしてウィッグ被っちまえば誰だかわかんないって。
 なぁ、そうだろ?ミーナミ!」


2つ前の席で帰宅の準備をしていた女子、南志保(みなみしほ)が振り返った。


「え、なーに?」


「ほら、さっき言ってたじゃん。アレの事。
 上手く行ったら山分けしよーって言ってた…」


「ああ、アノ事ぉー?
 うんうん、ギャル系のメイクをしちゃえば、
 見分けなんてつかないから大丈夫だよー?
 ミナミが要くんのこと、超可愛くしてあげちゃうから?」


南は右手の人差指を口元で立てると、エヘ…と首を傾げた。


ギャル系の雑誌で読者モデルをしているだけあって
見た目だけなら学校で一番と言っても過言ではないくらいの南。


そう、見た目ダケなら。


でもそんな見た目に釣られている男、
沢川陸は、彼女と視線が合うとデレっと表情を崩した。


「要くんは走るの速いからだいじょーぶだよ。
 この前計ったら、学年で一番速かったじゃん?
 それに~」


こびた様な視線をチラと俺の左側に居る陸に向け


「ミナミ……欲しいものが一杯あるのー」


南は長い付けまつ毛とアイライナーで縁取られた大きな目をパチパチと瞬かせ、
ねー?と同意を求める様に口端を上げた。

視線を向けられた陸は一瞬赤くなったが
ぶんぶんと首を横に振って冷静さを取り戻すと俺の耳元へと顔を寄せた。


「なぁ、頼むって。これが上手く行ったらさ、
 ミナミが付き合ってくれるっていってるんだよ」


「そうそう、こいつの恋が実るかは、要ちゃんにかかってるんだからさぁ。
 やってやろうぜ?トモダチだろ?」


陸が囁いた言葉に同意するように
智弘も説得する様な口調で軽く俺の肩を小突いた。



――友達のため……。



俺は内心まだ迷っていたが、決心をつけるようにゴクリと唾を飲み込むと
画面を偽のプロフィール情報で埋めて『登録』のボタンを押した。



それが、俺達4人にとって
悪夢の始まりとなってしまうと言う事に気づきもしないまま……。





【 - つづく - 】