ポジティブ・ポライトネスというのは、仲のよい人と話をするとき、もっと仲良くなろうとしてやる話し方(ストラテジー)で、人がもつ「他者に受け入れられたい、よく思われたい」という他者評価の欲求に配慮するものでした。

ブラウンとレヴィンソンは、これを以下に示す15のストラテジーに下位分類しています。

 

いずれもこのような接し方をされたH(聞き手)は、S(話し手)に受け入れられた、よく思われたと感じるわけです。

 

1. H(聞き手)(の興味、欲求、ニーズ、持ち物)に気づき、注意を向けよ
2. (H(聞き手)への興味、賛意、共感を)誇張せよ
3. H(聞き手)への関心を強調せよ
4. 仲間ウチであることを示す指標を用いよ
5. 一致を求めよ
6. 不一致を避けよ
7. 共通基盤を想定・喚起・主張せよ
8. 冗談を言え
9. S(話し手)はH(聞き手)の欲求を承知し気遣っていると主張せよ、もしくは、それを前提とせよ
10. 申し出よ、約束せよ
11. 楽観的であれ
12. S(話し手)とH(聞き手)両者を行動に含めよ
13. 理由を述べよ(もしくは尋ねよ)
14. 相互性を想定せよ、もしくは主張せよ
15. H(聞き手)に贈り物をせよ(品物、共感、理解、協力)

 

ブラウンとレヴィンソンによると、これらは相互に関連していて、以下のように図示することが可能だということです。

(ペネロピ・ブラウン、スティーヴン・C・レヴィンソン『ポライトネス―言語使用における、ある普遍現象―』田中典子(監訳),研究社,2011年,p. 136)

 

今回は、『エロマンガ先生』からの引用では取り上げなかったストラテジー3、6、11、13、14のうち、残りの3つについて、ブラウンとレヴィンソンや、滝浦の挙げている例と共に紹介していきます。

 

ストラテジー11は次のようなものです。

 

ストラテジー11 楽観的であれ
協力的ストラテジーに関する視点を切り替えて、逆の見方をすれば、H(聞き手)がS(話し手)の欲求をS(話し手)のために(あるいはS(話し手)とH(聞き手)双方のために)自ら望んでおり、それを手に入れるのを助けてくれるだろう、とS(話し手)が仮定するということになる。つまりS(話し手)が、H(聞き手)は自分に協力してくれるだろうと無遠慮ながらも期待するならば、当然S(話し手)もH(聞き手)に対して同様の協力を惜しまない、という暗黙の拘束が生じる。あるいは少なくとも、それが互いに共通の利益になるのだから、H(聞き手)はS(話し手)に協力してくれるはずだという暗黙の要求を伝える。

(ペネロピ・ブラウン、スティーヴン・C・レヴィンソン『ポライトネス―言語使用における、ある普遍現象―』田中典子(監訳),研究社,2011年,pp. 172-173)

 

これは、「人間関係の距離を縮めるか維持するかの決定要因」という記事で、お金を貸してくれるよう依頼する場合にどう言うのかを取り上げた例が参考になります。たとえば仲のよい同僚にお願いする場合、相手との仲の良さに対してアピールし、相手の存在意義やプライドを認めるような言い方、例えば「ねえ、お金貸してくれるよね」のような言い方をすることを、以前述べました。

 

このように無遠慮に、ある意味楽観的に、相手にお願いをするということは、逆の立場になったときに自分もそうしてあげると暗に言っていることになるということです。

 

これはなかなか面白い考え方だと思うのですが、みなさんどうでしょうか。

 

私も確かに、このように楽観的にお願いできるのは、自分も逆の立場ならそうしてあげられるほど仲のよい相手だけだという気がします。

 

次のストラテジーを見ます。


ストラテジー13 理由を述べよ(もしくは尋ねよ)
H(聞き手)を行動に取り込むもう1つの側面は、S(話し手)がなぜ自分がその欲求を持つのかについて理由を述べることである。自らの実践的推論にH(聞き手)を取り込み、反射性(H(聞き手)はS(話し手)の欲するものを欲している) を想定することにより、H(聞き手)はS(話し手)のFTAに妥当性を見出すことになる(あるいは、そうなるようにS(話し手)は望んでいる)。

(ペネロピ・ブラウン、スティーヴン・C・レヴィンソン『ポライトネス―言語使用における、ある普遍現象―』田中典子(監訳),研究社,2011年,p. 176)

 

これもちょっとピンと来ないかもしれませんが、以下のような例を見れば理解しやすいかと思います。

 

これはGoogle Booksにあった小説からの引用ですが、母親が反対しているにもかかわらず、エンリケという人物が子どもに乗馬を教えようとしている場面です。

 

「ママ! どうして乗馬を教えてもらっちゃいけないの? ここではみんな乗ってるよ」
「私は乗っていないわ」
「それも改善できるよ」エンリケがすかさず言った。「僕が教えてあげよう。絶対楽しいから。馬に乗れたらあちこち見て回れるし。じゃあ早速、明日初レッスンをどう?」
(アン・メイザー,青山有未(訳)『アンダルシアの休日』,ハーレクイン文庫版,Google Books)

 

ここで話し手のエンリケは、聞き手の子どもに、なぜ自分が「乗馬を教えたい」という欲求をもつのかについて理由を述べています。

 

具体的には、乗馬を自分が教えることで、子どもは馬であちこち見て回るという楽しい経験ができるからだということです。

 

皆さんも、仲のよい人に何か提案をするとき、ついついその提案を自分がしたい理由を言ったりしませんか

 

このような言動は、実はポジティブ・ポライトネスのストラテジーの1つだったのです。

 

最後のストラテジーを見ます。

 

ストラテジー14 相互性を想定せよ、もしくは主張せよ
S(話し手)とH(聞き手)の間に協力関係があることは、双方でやりとりされる相互の権利や義務の証を示すことにより、主張されたり、納得されたりすると考えられる。S(話し手)は実際、次のような言い方をすることがある。「あなたにX をしてあげますよ、もしあなたが私にYをしてくれたら」(I'll do X for you if you do Y for me) 、または「先週私はあなたにXをしてあげたから、今週あなたは私にYをしてください」(I did X for you last week, so you do Y for me this week) (あるいはその逆) 。

(ペネロピ・ブラウン、スティーヴン・C・レヴィンソン『ポライトネス―言語使用における、ある普遍現象―』田中典子(監訳),研究社,2011年,p. 177)

 

皆さんは、仲のよい友人と飲みに行ったりしたときに、「今日おごってくれたら、次に飲みに行く時は私がおごるよ」とか、「こないだおごってくれたから、今日は私がおごるね」のような会話をしたことがないでしょうか。

 

実はこのような関係というのは、よく考えてみると、仲のよい人としか成り立ちません。

 

それほど仲がよくない人にこのようなことを持ちかけると、おそらく不信感を抱かれたり、変な顔をされたりすると思います。

 

以上で、ブラウンとレヴィンソンによるポジティブ・ポライトネスのストラテジーをすべて紹介しました。いかがだったでしょうか。

 

「あっ、確かに私と仲のいいあの子の会話に当てはまる」とか、「あるある」とか思っていただけたのなら、紹介した意義はあったと思います。

 

次回以降は、それほど仲のよくない人と、仲が悪くならないようにするための、ネガティブ・ポライトネスについて見ていきます。