ぶちっ
何かが切れる音がした。
由実が老人目掛けて跳んだ。
慌てる老人。
由実は老人の銃を持ってる右手を蹴り上げた。
吹っ飛ぶ銃。
老人は右手を押さえてうずくまる。
そのうずくまる老人の頭に踵落としを喰らわす。
崩れ落ちる老人。
由実は床に散らばった機内食を見た。
先ほど自分達が食べたメニューと違う。
という事は・・・ビーフか!
由実は嫌な予感がしてCAに聞いてみた。
「まさかビーフはこれが最後って事は無いですよね?」
「何故分かったの?ビーフはこれが最後の一つよ」
由実はがっくりと崩れ落ちた。
「あなた、どうしたの?大丈夫?」
CAは由実を助け起こした。
「まさか本当に最後だったなんて・・・」
「大丈夫、チキンならまだあるから」
由実はそれを聞いてゆらりと立ち上がった。
「チキンはさっき食べた・・・」
由実の瞳に精気はなかった。
フラフラと倒れてる老人に近づく。
「そこまでだ!」
浩二が怒鳴ると由実の動きが止まった。
「もうその辺で止めておけ、これ以上は死んでしまうぞ」
「こんな奴死ねばいいのよ」
再び由実は崩れ落ちた。
そこにトムが走って戻って来た。
「機長は要求を・・・あれ?」
トムは床に死んだように倒れている老人とへたり込んでいる由実と
ぶちまけられている機内食(ビーフ)をかわるがわる見た。
「いったい何があったんだ?」
CAが事の経緯を説明する。
一通り説明を聞いたトムが由実の下へやって来た。
「君、いくらビーフを食べたいからって老人を襲っては駄目だよ」
ぶちっ
再び何かが切れる音がした。
「何を聞いてるんじゃー」
由実はトムに回し蹴りを喰らわした。
吹っ飛ぶトム。
沸き起こる拍手。
それに片手を挙げて応えながら由実はトムの胸ぐらを掴んだ。
「お前の分のビーフがあるだろう?それを出せ」
トムは首をブンブン振った。
自分の分の食事は機長に食べられている。
「私の分は無い」
「無いだと?」
「機長に食べられた」
由実はトムのみぞおちに膝蹴りを入れた。
「グフッ」
むせるトム。
「そんな事あるか!どこの世界で機長が副操縦士のメシを食べるんだ」
「この世界だ」
トムは締め上げられながら、かろうじて答えた。
「マジで?」
「マジで」
由実はトムを放した。
「本当の敵は機長であったか」
由実の瞳は怒りに燃えている。
論点がすり替わっている事に気がつかない。
由実は操縦室に向かって歩き出した。
「ちょっと待て、どこに行く」
浩二が慌てて後を追った。
職務に忠実なCAは何事もなかったように、ぶちまけられた機内食を手際よく片付けていた。
つづく
