大学が長い夏休みに入り、暇をもてあました俺は、

レンタルビデオ屋に通い詰めていた。
その日も借りたDVDをぶら下げ、川沿いの土手を歩いていた。

ふと河川敷を見ると草野球の試合らしきものをやっている。
どうせ暇だし真っ直ぐ帰ってもDVDを見るだけだし。

俺は自動販売機でコーラを買い、土手を下っていった。
グランド脇のスコアボードの日陰に座りコーラを開けた。
飲みながらスコアを見るとはなしに見て噴出した。

両方とも商店街のチームらしいが3回を終わって16-20だった。
まるでラクビーのスコアだ。

試合内容もスコアに恥じない堂々としたものだった。
ピッチャーはストライクが入らない。

キャッチャーはまともに取れない。
野手もまともな奴は一人もいなかった。
これでよく試合なんかしてるなと感心して見てたら、

ファールボールが足元に転がって来た。

俺はそれを拾い上げキャッチャーに向かって投げた。

それはストライクの返球だった。


キャッチャーは頭を下げピッチャーに何か言っていた。

おそらく俺のコントロールを見習えとか言っているに違いなかった。

暫く見ているうちにアクシデントが起きた。

片方のチームのピッチャーの足が攣ったのだ。
マウンドに集まって何やら相談している。
あれでも一応エースだったらしい。

そのうち皆が俺の方をチラチラ見出した。
そしてキャッチャーが俺のとこにやって来た。

「君、今暇か?」
暇だから、こんな試合を見ているのである。
「ええ、まあ」
俺は曖昧にうなずいた。
「さっきの投げ方・・・君、経験者なんだろう?」
「ええ、まあ」
「ピッチャーなんだけどやってくれないかな?」
「ピッチャー?」
「うん。あいつ以外はまともにストライクが入らなくてね」
あれでもストライクが入る方だったらしい。
俺は苦笑いしながら立ち上がった。
「投げても良いですけど責任取れませんよ」
「おおっ投げてくれるか・・どうせこんな試合だからかまわないよ」
彼はスコアボードを指して笑った。

俺は足が攣ったピッチャーからグラブを借りてマウンドに立った。
久しぶりのマウンドだ。
俺は1年前の事を思い出していた。




高校3年の夏の大会に俺は絶好調で臨み1回戦、2回戦と勝ち進んだ。
そして向かえた3回戦の相手はシード校である。
俺の好調さは神がかり的でシード校を抑えていた。
しかし1-1のまま迎えた9階裏ついに俺は捕まった。
連打とファボールで無死満塁の大ピンチ。

どうにか1アウトを取ったが、次のバッターは4番打者だった。
すでに彼には2安打されている。
俺は慎重にサインを確認し投げようとした時ランナーが走った。
スクイズだ。
俺はウエストした。

しかし外しすぎてキャッチャーも取れなかった。
大暴投である。
3塁ランナーが還り、さよなら負け。


それ以来のマウンドだった。
俺はゆっくり振りかぶって投げた。

ど真ん中のストライク。

歓声が上がった。
久しぶりに投げると気持ちがいい。
俺は更にど真ん中を投げ続け三振を奪ってチェンジになった。

ベンチに戻るとハイタッチで迎えられた。

「君、ピッチャーやってたね」
キャッチャーがクーラーボックスからスポーツドリンクを出し俺にくれた。
「ええ。高校の時ちょっと・・・」
「ストライクが入るとゲームがしまるな」
「はあ」
「次の回も頼むぜ」

その日の俺はど真ん中を投げ続けた。
打たれて点も取られたが楽しかった。
俺は投げながら大学に入った時に野球部に誘ってくれたチームメートの事を

思い出していた。
あいつ、俺が野球部に入りたいって言ったらどんな顔をするかな。

熱い夏がまた始まったのである。



終わり