僕の夢は甲子園に出る事だった。
そのため幼い頃から努力をしていた。
走りこみ、素振りなどは当たり前で、
最近では筋力トレもしている。
甲子園に出るためには甲子園にいけそうな高校を
選ばなくてはいけない。
僕は甲子園常連校のある私立高校へ入学した。
野球部のセレクションには合格しなかったので一般入学だった。
常連高校だけあって新入部員は50名を超えていた。
練習は大変厳しく夏の予選が始まる頃には三分の一に減っていた。
夏の予選が始まった。
その年もいつものように第一シードだった。
予選の始まる少し前、背番号とベンチ入り名が発表された。
当然のように僕の名前はなかった。
はじめからベンチ入り出来るとは思ってなかったので
ショックはなかった。
まだ一年なのだから。
その年は結局、準々決勝で負けた。
新チームになっても僕はレギュラーになれなかった。
しかし同世代でレギュラーになれた奴は3人だったので
悔しくはなかった。
秋の大会は準決勝で負けた。
僕は相変わらず練習漬けの毎日だった。
二年の夏の大会も結局ベンチ入りする事は出来なかった。
いつも一緒にトレーニングしていた近藤が控えの投手として
ベンチ入りが決まった。
背番号は11。
僕はその11のゼッケンを触らせてもらった。
随分ゴワゴワしている。
来年こそこのゴワゴワしたゼッケンをつけよう。
僕は前にも増して練習した。
その年は結局ベスト16止まりだった。
新チームのレギュラーが発表された。
僕は背番号15を貰った。
ついにベンチ入りを果たしたのだ。
強豪高校の練習試合は多い。
僕も何度か試合に出た。
しかし結果を出す事は出来なかった。
秋の大会を前に僕の背番号は18になった。
ベンチ入り、ぎりぎりの番号だ。
近藤はついにエースナンバー1を貰った。
秋の大会近藤は素晴らしいピッチングをした。
僕はベンチでスコアブックをつけながら近藤をうらやましく
思っていた。
秋の大会は準優勝を飾った。
もしかしたら選抜に選ばれるかもしれない。
僕たちはドキドキしながら発表を待った。
結果は優勝した高校が選ばれ、僕たちの高校は選ばれなかった。
皆は夏こそ甲子園に行こうといっそう練習をした。
最後の年が来た。
春先から近藤は絶好調で練習試合は連戦連勝だった。
僕たちの高校は優勝候補の筆頭だった。
今年こそ甲子園に行ける。
誰しも思った。
そんな時事故が起きた。
自転車の二人乗りをしていた近藤と僕が車にあおられ
転んでしまったのだ。
幸い近藤の怪我は利き腕じゃない方の腕の打撲ですんだ。
しかし僕は足を捻挫してしまった。
夏の大会に間に合うかぎりぎりだった。
夏の予選の組み合わせが決まった。
昨秋の大会で負けた相手とは決勝で当たる。
昨秋の雪辱をして甲子園に行こうと盛り上がった。
皆が盛り上がる中、僕は憂鬱だった。
足の具合が思わしくないのだ。
最後の最後でこんな事になるなんて。
最後の夏の背番号が発表された。
もちろん1番は近藤だった。
次々と名前が呼ばれていくが、もちろん僕の名前はなかった。
「最後に18番・・・田中」
皆いっせいに僕の方を見た。
「田中ほら」
僕は恐る恐る18番を受け取った。
まさか背番号をもらえるとは思わなかったからだ。
僕は嬉しくて泣いた。
近藤が方をポンポンと叩いて言った。
「一緒に、甲子園に行こうぜ」
そして夏の大会が始まった。
近藤の活躍で僕たちは勝ち進んで行った。
僕は試合には出させてもらえなかったが、スコアブックをつけながら
ベンチから声援を送った。
そして因縁の対決の決勝戦を向かえた。
その日近藤はどう言うわけか球に切れがなかった。
前半から打ち込まれ得点を与えていった。
殆どの試合を一人で投げ疲労はピークだったのだ。
味方打線も相手のエースを打てず凡退の山を築いて行った。
結局近藤は5回でライトにまわり控えのピッチャーが登板した。
しかし控えで押さえられるほど相手は甘くなかった。
代わったピッチャーが打たれ、8回を終わって思わぬ大差がついた。
11対2
絶望的な点差だった。
そして9回も2アウトになった。
僕はスコアブックを傍らに置きバットを握った。
監督が振り返って僕を見た。
「田中、行くか?」
「はい!」
僕は威勢良く答えベンチを出た。
ネクストサークルには近藤がいた。
近藤は静かにうなずいた。
僕もうなずきバッターボックスに入った。
最後の最後で公式戦初打席が回ってきたのだ。
僕は大きく深呼吸をした。
ものすごい声援である。
一球目、二球目とも空振りをした。
かする事さえ出来ない。
僕はタイムをしてネクストサークルに滑り止めをしに行った。
近藤は笑顔だった。
僕の腹を小突きながら言った。
「安心しろ、命までは取られないから」
僕はそれを聞いて少し落ち着いた。
「そうだよな」
「ああ、・・・そうだ、この試合が終わったらプールに行こうぜ」
「プール?」
「ああ、水着のお姉ちゃんを見に行こうぜ」
「よし行こう」
僕は打席に向かいながら近藤に感謝した。
近藤は僕の緊張をほぐそうとあんな事を言ったのだ。
打席に入り、もう一度近藤を振り返った。
近藤はガッツポーズをした。
僕は何だか打てそうな気になってきた。
三球目はボールだった。
四球目はファール、五球目はボール。
そして2-2からの六球目僕は思いきっリ振った。
打球はボテボテと三塁前に転がった。
僕は走った。
一塁までの距離が随分長く感じられた。
僕は一塁に頭から滑り込んだ。
一瞬の静寂のあと一塁審判のアウトのコールが響いた。
球場は大歓声に包まれた。
一塁ベースで倒れこんだままの僕にチームメイトが集まって来て
助け起こしてくれた。
ホームベースを挟んで整列し最後の挨拶をした。
僕の三年間は終わったのである。
グランドの土にまみれた背番号18は僕の一生の宝物になるだろう。
終わり