それはとても暑い、ある夏の夜の出来事。
学生生活最後の夏休みに皆で旅行にでも行こうと言う事になった。
計画を煮詰める為に俺の部屋に集まる事にした。
メンバーは俺とHとSそしてAだ。
その日はとても暑く、夜だというのにセミがうるさく鳴いていた。
HとSは早くから来てビールを飲んでいる。
例によってAは遅刻らしい。
俺たちはいつもの事なので気にしないでいた。
ネットで色んなところを見てるうちにHなサイトに流れていった。
これもいつもの事だ。
しかし今日はHなサイトばかり見てはいられない。
せめて行き先だけでも決めないといけないからだ。
ふとHが去年の旅行のDVDを見ようと言い出した。
何かの参考になるだろうと俺が編集したDVDを再生してみた。
もう何回も見ているが、下手なお笑い番組より笑える。
笑えるといっても素人が撮った物だからアングルは悪いし、やたらぶれてる。
それでも俺たちは笑いながら見ていた。
20分ぐらい見ていただろうか・・・
突然Sが怒鳴った。
「ちょ・・・今の何だ」
「今の?」
俺が聞くとSは青ざめながら言った。
「今のとこもう一度見せてくれ」
俺は訳が分からないまま、さっきのところを再生した。
その場面は移動中の車の中を映したところだった。
「よーく見てて・・・止めて」
俺は一時停止をボタンを押した。
Sが止めさせたところは運転するAを助手席から映したところだった。
「ほら、ここ見てみろ」
Sが指差したと先は車のサンルーフだった。
この時は夜だった為真っ黒だ。
「サンルーフがどうかしたのか?」
俺たちが分からないでいるとSがもどかしそうに言った。
「ちょっと戻ってコマ送りにしてみてくれ」
俺は言われた通りにした。
Aが変な顔をして運転してる姿がコマ送りで流れた。
俺が笑おうとした時、一瞬サンルーフに何かが映った。
俺は慌てて止め、更にゆっくりにしてみた。
そこにはあきらかに車外から覗き込んでいる顔があった。
しかもものすごい形相でAをにらんでいる。
俺たちは顔を見合わせた。
「これ何だ?」
「人の顔か?」
「こんなの前から映っていたか?」
「いや、気がつかなかった」
「俺も」
「俺もだ」
俺たちは黙ってモニターを見つめていた。
「そう言えばAはどうした?」
俺は止めたままの画面を消した。
「さっき電話したら運転中になってた」
Hは缶に残ったビールを一息に空けて言った。
「もう一度電話してみようか・・・」
その時突然部屋の電話が鳴った。
俺たちはものすごく驚いた。
俺は深呼吸して電話に出た。
「はいTです・・・あっA君のお母さん」
Aの母親とは何回も会っていて、気さくな明るい人だった。
「A君なら、まだ来てま・・・」
俺は途中まで言って相手のただならぬ気配に黙った。
Aの母親はすすり泣いていたのだ。
そして声を絞り出すように事実を告げた。
俺はSとHの方を見ながら鸚鵡返しに言った。
「Aが事故って即死・・・」
SとHは引きつったような顔をしてる。
俺は挨拶もそこそこに電話を切った。
Aは俺の家に向かう途中、事故ったらしい。
俺の家に行くと言っていたので病院からかけてくれたのだ。
俺たち三人は黙ったまま消えているモニターを見つめたいた。
いつの間にかうるさいぐらい鳴いていたセミは鳴き止んでいた。
とても蒸し暑い夜だった。
終わり