「男が人を刺している」「女の人が血を流して倒れている」。15日午後8時20分ごろ、尼崎市消防局に119番が相次いだ。
現場は、阪神尼崎駅の北西約350メートルにあるマンション。飲食客らでにぎわう金曜の夜、阪神間随一のネオン街にパトカーや救急車のサイレン音がこだました。
県警によると、第1通報者は、宅配業者の男性だった。荷物を届けるためマンション敷地に入ると、駐輪場付近で男が刃物のようなもので女性を刺していた。
刺し傷は、背中周辺に数カ所。男はマンション前の歩道に止めたスクータータイプのバイクにまたがって国道2号を西へ逃げた。後に男のものとみられるバイクが西宮市内で見つかり、一部に血痕が付いていた。
「もしもし、大丈夫ですか、大丈夫ですか」。5階に住む男性(54)は、帰ってきてすぐに大声を聞いた。2人の警察官が倒れている女性の肩をたたきながら、耳元で呼び掛けている。女性はボーダーのシャツにスカート姿で、手脚を伸ばしてうつぶせになり、ぴくりとも動かなかった。
パトカーや救急車が到着し、近くの飲食店にいた男性(47)は、サイレンの音が気になって救急車の方に足を向けた。車輪付きの担架で、女性が運ばれていた。「目は開いたまま。『目撃者はいませんか』と、警察官が呼び掛けていた」
女性は心肺停止の状態で、搬送先の病院で死亡が確認された。駐輪場の地面には直径40センチほどの血だまりができ、無数の血しぶきが自転車の列にも飛び散っていた。落ちていたリュックサックから、女性の免許証などが見つかった。
女性と同じ階に住んでいる夫婦は「被害女性は最近引っ越してきたようで、面識はなかったけれど、隣人がこんなことになるなんて…」と驚いた様子だった。
県警の鑑識活動は16日午後3時半ごろまで続いた。夕方になって西宮市内にいた元夫を身柄を確保し、午後8時現在、事情を聴いている。