この30年間に日本に起きた顕著な変化は、凄まじい科学、技術の進歩発展であった。

機械、コンピューター、ロボット、AIなどの急速な進歩であった。これらが、日本の産業界において、著しい生産力の向上をもたらしたのであるが、しかし、不思議なことに、その生産力の向上が、経済成長に結びつかなかったのである。



なぜ生産力の向上が、経済成長をもたらさなかったのか?

その理由は、賃金が上がらなかったからだ。賃金が上がらなければ、需要(消費)が増えないので、経済成長できなかったのである。


では、なぜ賃金は上がらなかったのか?

それは、機械、コンピューター、ロボットが優れた能力を発揮して、仕事をこなすので、もはや人間は、高い能力を発揮する必要はなくなったからだ。

工場では、コンピューター制御の工作機械が、ものすごいスピードで、大量にモノを生産する。

人間は、機械の横で、補助的で単純な仕事をすれば良い。

工場経営者は、当然、このような従業員に、高い給料は出さないだろう。


当たり前のことであるが、機械、コンピューターが進歩発展して、高い能力を発揮するようになれば、もはや人間は高度な技能を習得する必要はなくなる。

高度な技能を持たない人間に、企業は高い賃金を出さない。


スーパーでは、レジ係は、商品に「バーコード読み取り機」を当てるだけで良い。ものすごく簡単な作業なので、最低賃金程度しかもらえないだろう。

会社の経理係は、パソコンに会計ソフトを入れておけば、後は項目と数字を打ち込むだけで、勝手に帳簿を作成してくれる。経理係りも、あまり高い給料はもらえそうにない。

銀行では、ほとんどの仕事は、ATMがこなしてくれるので、銀行員のする仕事は、昔と比べて相当減っただろう。


今や、あらゆる分野で、優秀な機械、コンピューター、ロボットが高度な仕事を成し遂げるので、人間はその補助をする程度で良くなってしまった。


さて、経営者は、機械、コンピューター、ロボットには高い費用を出して購入するが、そのかわり技能を持たない労働者には、できるだけ賃金を据え置こうとするだろう。

これは、企業経営者として、当然の行為であって、なんら間違ってはいない。

もし、いたずらに賃金を上げて、経営が苦しくなり、倒産するようなことがあれば、経営者として失格である。


以上が、日本において、30年間賃金が上がらなかった理由である。実に単純明快な話で、世の中をよく観察すればわかることだ。

ところが、不思議なことに、誰もこのことに気づこうとしない。

総理大臣は、企業に向かって、賃金を上げるように要請するが、一部の大企業は別として、多くの中小零細企業は、簡単に応じることができない。なぜなら、賃金を上げて、倒産してしまっては何にもならないからだ。


次に政府は、労働者のスキル(技能)を高めることによって生産性を上げ、それによって、賃金を上昇させることを提案しているが、これもおかしなことではないだろうか。

なぜなら、機械、コンピューターが著しく進歩し、能力を高めているので、人間はもはやスキルを高める必要がなくなっているのが現実だからだ。


さて、このようにして、賃金は今後、さっぱり上がる見込みは無い。その上、AIが急速に進歩するだろうから、ますます人間は「でくのぼう」でも良いことになる。


ところで、よくよく考えて欲しいのだが、機械、コンピューター、AIが進歩発展すればするほど、国全体の生産力は向上するはずである。

そうであるのに、日本は30年間、ほとんど経済成長していない。

それは結局、賃金が上がらなかったからである。

国民全体の賃金が上がらなければ、消費(需要)は増える事は無い。すなわち、供給に対して需要は弱いままになる。

したがって、いつまでたっても根強い「デフレ不況」から脱却できないことになる。


さて、日本はどうすれば良いのか?

以上のような問題は、民間の力ではどうすることもできない。そうであるなら、政府の持つ強大な権限に頼るしかない。

政府は今こそ、「通貨発行特権」を発動して、国全体の持つ生産能力と、需要との不整合を正すのである。

国民全員の所得(賃金)が少なくて、生産能力に追いつかないのであれば、国民の所得を増やせば良い。その方法は、「減税」と「給付」によるしかない。

その時、国債発行によって生まれる財政赤字は、政府による通貨の発行であって、国の借金ではない。


現在の制度では、政府は直接、通貨を発行していないので、国債発行と言う形を取る以外に方法がないからである。(政府紙幣を発行していないということ)


そもそも、科学技術が進歩して、生産力が向上しても、豊かになれないのはおかしいではないか。

これは、声を大にして政治の責任と言わなければならない。