「人権を失うよ」
と條辺さんは言った。
「そんなことがありえていいんですか。人権を踏みにじられるなんて」
「でも冗談じゃない。人権を失ってしまうよ」
條辺さんの意見は揺らがなかった。
どうしてそんなことにならなくてはいけないのか。
それは資格試験の申込を私が渋ったからだ。
この会社に入ってからというもの、資格をもたずに日々を生きることを先輩たちは「無免許運転」と蔑んだ。
入社から数カ月はなんとか甘くみてもらえていたが、2年以上が経過した現在、私は無免許運転に他ならなかった。
「これから1か月おきに模試をやって結果をみていくから」
それから本当に模試が始まり、その成績で毎回会議の度に本当に叱責をくらうことになろうとは。
「資格ハラスメントですよ。勉強しなかったからこの職業についたのに、どうしてこんなに勉強しろと言われないといけないんですか」
「もうこの会社に入ったからには仕方のないことなんだよ」
どうやったって勉強をしたくない。
そのため私が思いついたのが、そもそも不備で資格試験の申込ができないという作戦だった。
しかしながらこれはあっという間に看破され、冒頭の條辺さんの台詞へとつながる。
人権はさすがに失いたくない。
人だから。
けれども人権を守るために努力しないといけないなんて、日本の民主主義のついにくるとこまできてしまった。
どうせこの資格をとっても次は別の資格を取れとなる。
つまりは勉強をずっとしていかないといけないということだ。
どうして生活ギリギリのラインで満足し、そのレベルの勉強しかしきていないのに、彼らは生活水準をあげるのか。
にしてもわざわざ資格試験のために模試まで作ってくれるとは、これは相当良い会社だ。