同僚の遠藤さんが「鈴木さんと飲みに行ったのですが、彼女、理想の彼氏をあなたにしてましたよ」と伝えてきた。
鈴木さんはまだ20代で1年前に中途入社してきたばかりだ。
年齢が重なるにつれ、そのようなことを20代から言われることがどんどんなくなっていっていたため、たとえ社交辞令であってもそれはとても嬉しいことであった。
もしかしたら彼女とネクストがありえるかもしれない。
そう考えると自然に私の胸も高鳴った。
だが、家に帰りシャワーを浴びて眠りにつき、翌朝ルーティンを終えて出社のための満員電車乗車時には、それは間違いなく社交辞令であると確信し、私のテンションは下がった。
そもそも論で、48歳にもなる遠藤さんが20代の女の子を二人で飲もうと誘ったこと自体がだいぶ気持ちが悪い。
くわえて遠藤さんのことだから、「社内で付き合うとしたら誰がいい?」みたいな質問をしたに決まっている。
『“この中で付き合うとしたら誰?”と“S?M?どっち?”的な質問はこの世でも最も不毛な質問2TOPだよね』
以前懇意にしていた女性からそのようなことを言われたことを思い出す。
たしかにその通りだ。いずれも聞く必要もなければ答える必要もない質問であり、答えを聞いたところで不毛だ。
その不毛地帯に、私の名前があがってしまったならば、すなわち私という存在が不毛ということだ。
(どんな整数に対しても0をかけて0という理屈だ)
時折よく考えてしまう。
いまの恋愛は全てアプリであるし、もしそれ以外であるならば社内恋愛くらいしかもう自分がモテる手段はない。
だが前者も後者も、私は嫌なのだ。
前者はプロセスがとんでもなくダルいし、後者は結果がとんでもなくダルい。
この現実が全て仮想世界に入れ変わらないものだろうか。
『そんなものは不毛だよ』
そう言ってくれる女性が好きだった。
ここは不毛地帯であるとわからせてくれる女性が好きだった。
全員が天使のように羽を生やし、私を抱え宙を舞い、嫌いな人間を焼きつくし、私の指示に従う。
私は私で、私に尽くす天使たちを救済する。
政治家は成し遂げたのだからみんなセックスドールそのものの秘書を雇い、医療は全て無償化でクソみたいに高圧的で独善的な医者は全て排除。
ダウンタウンは復活し、タカ・タナカはまた甦る。
週休2日は3日にしよう。税金は据置だ。
不老不死だって簡単にかなえてあげる。
そして全てをやり尽くした時、不毛地帯を教えてくれた女性が三度私の前に現れ、こう告げるのだ。
現実は誰にも説明できない。
自分の目で見るしかない。
これは最後のチャンスだ。
もう後戻りはできない。
青い薬を呑めば、話は終わる。
ベッドで目覚め元の暮らしが待っている。
赤を飲めば、この不思議の国で、うさぎの穴の奥底へ降りていける。
いいか?見せるのは真実だけだ。
誰でもいいから教えてほしい。
私の真実は、いったいどこだ。