美容室大嫌い芸人こと私は、5ヶ月に1回の散髪ペースに完全に慣れており、この日も馴染みの美容師に対し、

「5ヶ月に1回の散髪ですので、もう年内は来ません。というわけで本年もありがとうございました。来年もよろしくお願いします」

とギネス級に早い年末の挨拶を済ませたところ、結構ドン引きしたトーンで、「いや…3ヶ月に1回くらいは切ったほうが…」と言われてしまった。


なぜ美容室が嫌いかというと、そもそも髪を切る時間をもったいなく感じたり、髪型を指定すると"こいつこんな感じのくせにそんな髪型にすんのかよ"と思われてるなあと自信を無くしたり、勇気を出して髪型を指定すると"お客様の髪質では厳しいですね"と否定されてしまったり、じゃあお任せにするとほぼ100%の確率でコボちゃんにされてしまうからだ。


美容師と会話するのもしんどいし、では黙って雑誌を読んでいるのも気まずい。

挙げ句絶対予約バラシするわけにはいかないので、妙なプレッシャーまで感じてしまう。


そんな中でようやくたどり着いたこの錦糸町の美容室は、私の美容室嫌悪を100%から72%くらいまで下げてくれる希少なお店なので、手放したくない。


これだけ髪を切ることにダルさを感じていると、常日頃から周囲の人間が「こいついい加減髪切れよ」と抱く内心を、なんとなく察することができる特殊能力まで身についた。


その能力により、いい加減髪切れよが限界まで高まるタイミングが5ヶ月なのだ。



散髪後に会社にいくと、毎回とんでもない驚きを浴びる羽目になる。

それはそうだ。5ヶ月分の毛量が一気になくなるんだから。
見た目も雰囲気もそれは変わる。


だが今回は、私の髪型アップデートを初めて目にする山田さんが

「え、めっちゃかっこよくなってる!もうゴールデンレトリバーじゃなくなったじゃないですか!」

とテンション高く言った。


え、俺裏でゴールデンレトリバーって言われてんの…?


これはもはや衝撃だった。

たしかにとにかく伸び切った髪は不潔なので、多少は良く見せようと髪の毛は毎朝ケアをしてから出社していた。

まさかそれが結果としてゴールデンレトリバーと呼ばれることになろうとは。

悪口を言われることには慣れている。

なので言われても平気だというキャラでやっている。

だがそう言う人間ほど、悪口を言われることに誰よりも臆病であったりするのだ。


家に帰り裸で鏡の前に立ってみた。

なんて醜いものだろうか。

ためしに四つん這いになってみると、たしかにそれは豚というにはやや物足りない、犬だった。


まあまだそこらへんの汚い野良犬よりは、ある程度高貴なイメージのあるゴールデンレトリバーであっただけましか。


そう無理矢理自分を納得させ、YouTubeでトリマーが犬をめちゃくちゃシャンプーする動画を観ながら寝た。