「少なくともお前は、“良い人”だとは評判だよ」

ありがたいことに今期、非常に高い人事考課を受けさせていただいた私は、それに応じてボーナスがあがり、ついにPS5を購入することができた。

「この先のキャリアについて相談したい」と上司は言い、「マネージャーをやってみないか」と私に打診をした。

それは紛れもなく、出世の話だった。

「ひとつのポジションを徹底的に極めることよりも遥かに、チームをマネジメントするほうが向いてるよ。完全にそっち向きだ」

「しかし自信がありません。誰かに通用するとは思えません」

そう返答すると上司は「少なくともお前は、“良い人”だとは評判だよ」と私に告げた。



「“良い人”か。それは・・・その言い方は僕はあまり好きじゃないんだ。だってそれって自分に都合の良い人のことをそう呼んでいるだけのような気がするから。全ての人にとって都合の良い人なんていないと思う。何かの役に立っても他の誰かにとっては悪い人になるかもしれないし。だからこの話に乗ってくれなかったら、僕にとって“悪い人“になるね」

進撃の巨人の劇中で、登場人物のアルミン・アルレルトがアニ・レオンハートと”良い人“の定義について議論を交わすシーンだ。

知性を持った巨人の正体が人間であることは示唆されていたが、多くの読者はこの問答を経て、明確にアルミン達が同期で友人のアニがその巨人であると疑っていることを確信する。

彼らの策略に警戒心が強く冷静なアニを誘い込む前段階でおこなわれたこの“良い人問答“は進撃の巨人の名シーンのひとつとして有名だ。

そういう意味では、私は都合の良い人として適任だ。

逆らうこともなく、文句も言わない。

無駄にメンタルも強い。

往々にして、出世していく人間はそういうタイプだ。


『私があんたの良い人でよかったね。ひとまずあんたは賭けに勝った。でも、私が賭けたのはここからだ』


とても恰好の良い台詞だ。

私もその心境に至りたいが、それを言うためには請けねばならない。


経験者であればわかるだろう。


人の上に立つということは、信じられないくらいストレスな話だ。