最寄り駅で繁原を見た。

土曜日だというのにスーツを着た、いかにもビジネスチャンス探してますみたいな太った眼鏡の男性と喫茶店を探しているようだった。

駅前のコメダ珈琲に入ろうとしているようだったが、私はあそこがどうやったって満員で入店できないことを知っている。

娘を習い事に通わせている間、私はルノアールでスマホを弄りながら待機しているのだが、しばらくするとそのルノアールに繁原とビジネスチャンスが入店してきた。

コメダ珈琲はやはり満員か、と心の中で呟き、彼らの動向を見守っていると、予想通りビジネスの話をしているようだった。

土日にルノアールでビジネスの話って。実に繁原らしいな。

そんなことを思いながら顔を除いてみると、それは確実に繁原ではなかった。

比喩ではなく、シンプルに別人だった。


これは、繁原は土日にルノアールでビジネスの話をするという先入観が、そのビジネスマンAの顔を繁原に変えてしまったということだ。

これを“バイアス”と言う。知らんけど。


昨年の今頃何をしていたのか確認すると、亀戸駅から徒歩数分の場所にあるタイ料理屋の屋台で、昼間からガパオとグリーンカレーを食べていた。

たった1年でこの生活差だ。本当にこの国の働き方はどうかしている。

時折、このまま働かなかったらどうなっていたかを考える。

そうなるとやはり結果的に老後働かないといけなくなるので、やはりそうなるわけにはいかない。


前会社の巡回チームの豊島さんは約1年間かけて復帰したが、会社はどうやらなんとしても退職させたいらしく、出退勤に2時間かかる八王子への異動を決行した。

50代、独身。重度の持病有りで健康問題有り、資格無し、事務処理不可、とんでもないアンモニア臭。溶けた歯。

加えて賃貸アパートで長年に渡り猫の多頭飼いをしているため、退去となるととんでもない復旧費用を請求されることになる。

犯罪こそ犯していないものの、彼の人生は牢獄そのものだ。


宮路さんもそうだ。

70歳を迎えた高齢者でまともに歩行もままならないのに、まだ働かないといけない。

品川が勤務場所なのに千葉の賃貸アパートを解約せずにウィークリーマンション暮らしをしている。

それなら賃貸アパートを解約すれば良いのにと普通は思うが、解約してしまったら最後、彼は2度と賃貸アパートを借りれないだろう。


もう1人超高齢の今泉さんに関しては1300万円の損害賠償を叩き出してしまったときく。


70超えても始末書を書かせるのかこの国は。



いつか自分もそうなってしまう気がしてならない。


もう先はないのだ、とこの歳で確信をしている。

後は諦めて受け入れる覚悟だけだ。



だがこれが、とにかく難しい。