オフィスで書類整理を黙々としていると、事務の中迫さんが私に話かけてきた。


『一昨日女子会があったんですよ。その際になんと話題にあがりました』

「え?俺が?」

『そうです。おめでとうございます』


女子会という響き自体が非常に恐ろしいものがあるが、それでも話題にあがることはとてもありがたいことだ。


きけば参加者は6人。結構な女子会ではないか。
そこでいったい私がどんな話題となったのだろうか。


『渡辺さんがね、愚痴ってたんですよ。他の人には楽しそうに雑談するのに、私には話し掛けてくれないって』

「ごめん、渡辺さんって誰だろ?」

『え?部署違いますけどよく隣座ってますよ』

「あー、いや接点ないのに隣の人にいきなり話しかけたりしないでしょ。で、周りの人はなんて言ってたの?」

『"人見知りなんだよね"ってみんな言ってました』


人見知り…

俺もう中年だぞ…

オッサンの人見知りはエグいだろ。


若い頃であれば人見知り、であればなんとなくまあ個性っぽくは聞こえるし、そうでないならだいたいキモいよねーとか童貞かよとか言われたりした。


しかしこの年齢になってしまうともはやキモいに逃げることすら許されない。


18歳から29歳くらいまでもっぱら私は「童貞なんです」をやり続けた。

勝手知ったる仲の人達は、もうやめなよ、や、それなんの得があるの?と呆れたりしてきた。

だが多方、初見には男女問わずウケた。

え?見えなーい。嘘つけー。なんて言われると当然私の承認欲求は満たされたし、何か不具合があっても、まあ童貞だから仕方ないよね、で突破できる。


まさに魔法だった。


けれども30を過ぎると、その年齢まで童貞は結構なレベルで気持ち悪がられてしまい、ネタにもならない。

童貞だから仕方ないよね、は、だから童貞なんだよ気持ち悪い、になってしまった。


つまりはもう許されないのだ。


「中迫さん、渡辺さんはちなみに、俺は全く話さないみたいな感じだった?」

『いえ、挨拶はちゃんと返してくれるって言ってました』


よかった。及第点だ。


中年になって挨拶もろくにできないは終わっている。


それこそ童貞じゃないか。


挨拶は大事だ。

だが私は、挨拶をするとき、全く相手と目を合わせない。



これはこれで童貞っぽいな、と我ながら思う。