若い頃はいくらでも食べれた豚カツを大盛りで食べたところ、胃が焼け野原となり、とんでもないレベルの胃もたれに苦しむことになった。

市販の薬を購入し、家でそれを飲んで横になっているとそのままいつのまにか寝てしまい、目が覚めると既に土曜日の朝10時を迎えていた。

せっかくの華金を胃もたれに費やし無駄にしてしまった後悔とともに、今度はとんでもない目の痒みを感じ、そのすぐ後には止まらないほどのくしゃみに襲われることになった。


紛れもなく花粉症。

昨年は早い段階で病院にいき、シーズンを乗り切ったが、今年は仕事が忙しくそういうことをするという頭にすらなっていなかった。


しかしアレルギーを認識するやいなや、猛威を振るうのが花粉症だ。

耐えられない痒みとくしゃみは悪化するばかりなので、仕方なく私は身支度を整え、耳鼻科へと向かうことにした。



土曜日の耳鼻科は異常なほど混む。


家族連れや平日通院不可な会社員達に加え、地域柄無駄に大量の中国人が押し寄せてくる。

保険証と診察券を出し、症状を伝えると、『2時間待ちになります。外出も不可です』と言われてしまった。


2時間…これだけで午前が終わる。
けれどもここで諦めて帰宅しても次にこれるのはまた土曜日だし、きっとその際はその際で2時間待ちを告げられるはずなので、それならばと渋々了承し、待合室の長椅子に腰掛けることにした。


スマートフォンを弄ろうと手に取ったが、電源が入らない。

昨日整腸剤を飲んでそのまま寝てしまったので充電をするのを忘れていたので、どうやら電池が切れてしまったようだ。

結果として私は、全く何もすることなく2時間を過ごした。

何もやることのない2時間は無限だった。

無理にでも寝てしまおうと思い瞳を閉じて意識を喪失したりはできたが、それでもフッと気がついて時計を見ると10分しか経っておらず、それは絶望だった。



ようやく2時間が経過し、無事に診察を終え薬を処方されると、私は家に帰りスマートフォンを充電しながら、パソコンで最寄りの映画館の上映リストを見て過ごした。


夕方にはアカデミー賞で多部門の受賞をしたウィキッドが上映されている。


子供の頃はたしかにオズの魔法使いを夢中になって絵本で読んだことはあったが、このウィキッドがじゃあオズの魔法使いのなんなのかはよくわかっていなかった。


まあ家にいてもやることはないし、せっかくだから観にいこう。


携帯の充電は60%まで回復していたので、簡単に洗濯物だけを室内に干し、私は再び外出をした。


映画館に向かう電車の中で、シロからLINEが届いた。


シロとは翌週の木曜日に会う予定があったが、LINEを読むと『次に会ったときに話したいことがある』と書かれていた。

シロは47歳だ。


47の中年女性の話したいことなんて、どうせくだらないティーンエイジャー以下のお花畑恋愛相談に決まっているので、私は無視をすることにした。

しかしまたすぐに『迷惑かな?』と追撃LINEがきたので、「そんなことないですよ。全裸でお互い飲みながら話しましょう」と返答をした。


ウィキッドは公開されて間もない筈だったが、そこまで映画館は混んでいなかった。


緑色の皮膚をする主人公を観ているうちにアバターを思い出したり、オズの魔法使いの主人公の少女の名前はなんだったかな?と考えたり、うとうとしたりしながら観賞を続けたが、ウィキッドに抱く感想は、とにかく長い。であった。ってか歌いすぎ。元も子もないけど。


実に3時間…


耳鼻科で2時間、薬局で30分、ウィキッドで3時間…

時間だけが過ぎていく。




帰り途中コンビニにより、コロッケ蕎麦とカツ丼を買って、家に戻り温めてから食べた。

昔から蕎麦とカツ丼のセットがとても好きで、コンビニでも必ずこの二つは合わせて買うことにしている。


けれども食べている途中で、そういえば昨日も豚カツを食べて腹が痛くなったんだったなと思い出し、なんだか急に食欲が失せてしまった。


あまりにも勿体ない土曜日だ。食べ物も金も時間も。


シロから返信がきていた。

『それはいいね。下着何もつけないでいくね』だそうだ。


まあ悪くない。

裸で悩み相談か。エロいなそれは。


なんだかんだ楽しみが増えて、少し幸せな気分になった