『オカルト仲間ができてよかったです。また行きましょう』

西葛西のメンズエステ嬢の舞ちゃんと怪談バースリラーナイトに行くことができた。

あの時舞ちゃんから友達になりましょうと言われ、最初は客と嬢という関係上そんな都合の良い話にはならないと思っていたが、
まさかこうして本当にプライベートで会えることになるとは思わなかった。


『私と同じ店の子がね、お客さんに惚れちゃったんだけど、その客が私を指名するんだよね。ほんとやめてほしい。ばれたら気まずいじゃん』

「やっぱりメンズエステでもそういうことあるんだね。もうそこは割り切って早めに言ったほうがいいんじゃない?」

『駄目だよ。意外とこういうことは女同士根が深くなるよ。三角関係なんかほんとにタチが悪いんだから』

「そうなの?」

『オカルト的なことで言えば、岡山地底湖行方不明事故的な感じだよ。あれだって三角関係のもつれでしょ?』

「あー。遭難でなくて〇害されたとか、もともと地底湖に行ってなかったってやつね」

『そうそう。三角関係の縺れでしょ。その後のmixi改ざんも闇だよね』

「舞ちゃん、あの事件は完全に事故だよ。闇も陰謀もない。悲劇的な事故だ」

『えー。さすがにそれは無理くないですか?』


「それはなんの根拠もない2ちゃんねるの情報が、ひとり歩きしただけだよ」







まず大前提として、なぜあの岡山地底湖事件が事故でないとされるのかは、複数の要因があるからだ。

・入洞届が出されなかった
・同じ大学サークルの仲間で、地底湖を泳いで渡るのが恒例とされながら、実際に泳いだのは被害者だけだった。
・「タッチ」の声が聞こえたのに、溺れた際の助けの声を誰も聞いていない
・遭難後、誰も地底湖に残らず、全員で出洞した
・被害者の遺体が発見されなかった
・部長が記者会見を開いていない
・被害者のmixiが遭難後に何者かによって更新された

こんなところだよね。
たしかにこれだけ聞いたら、事件性というか、何等かが意図的に隠されていると思わずにはいられない。

結果的に“そもそも被害者は、入洞なんかしていない。計画的に〇害されて遭難ということにした完全犯罪だ”なんて言われるようになった。

だけどこれらには出鱈目がたくさん入ってるんだ。


まず入洞届。

この当時は提出は義務ではない。任意なんだ。

本来であれば地域の宮司にたいしても入洞の連絡がなされるんだけど、その時は年末で宮司も忙しかったらしく
メンバーは気を遣ってあえて連絡をしなかったらしい。

次に同じ大学メンバーの中で被害者だけが地底湖を泳いだ件。

長くなるけどさ、一番は入洞した5人は他大学やOBも含めたメンバーで、その中に被害者と同じ大学の人はいないんだ。
どこをどうまちがったのか、勝手知ったる同じ大学のサークルメンバー、なんなら仲良しメンバーで入洞したみたいになってるけどあれは大嘘だよ。

だから三角関係もイジメもクソもないんだよね。

ちなみに泳いだのは完全に本人の意思だよ。
彼が泳ぐに至るまでの経緯も詳細にレポートされている。

「タッチ!」の声が聞こえたっていうのも出鱈目だね。根拠なく突然2ちゃんねるに誰かが書き込んだに過ぎない。

じゃあなんで助けてくれの声がなかったのか。これについてはすごく単純だよね。

溺れてみればわかるよ。溺れてたら声なんか出せないよ。


遭難後に誰もその場に残らなかったのはちゃんと理由があってさ。

被害者が泳ぐ前に地底湖を横断しようとしたメンバーがいたんだってさ。

その人は泳ぎがあまり得意じゃないってことで途中であきらめたらしいんだけど、水にぬれてしまったと。

他にも濡れているメンバーもいたから逆に残ると低体温症とかで危険になる可能性もあるってことで全員で出洞したんだよ。


被害者の遺体が発見されなかったのは当然捜索困難な場所だからだし、遭難した被害者のためにサークル部長が記者会見するなんて事例きいたことない。


最後にmixiの改ざんはまさにこういう風に誰かが陰謀であると噂してサークル全体に迷惑がかかることを危惧した部長が修正しただけだよ。

ちゃんと改ざん後に誰が直したのかわかるようにしっかりアカウント名に自分の特徴も残しているわけだし。



これが全てだよ。

あの事件に陰謀なんかないんだ。







『そんな情報どこにあるんですか?』

「参考文献つきで、wikipediaにのってるよ」

『ええ!なんでそんな有名な事件なのにwiki読んでないんだろ私』

「そんなものだよ、オカルトなんて。必要な情報が足りていないだけだ。その足りない理由を別の都合の良い情報で補って、いつのまにか本当の話なんかなくなっちゃう」

『テセウスパラドックス』

「そうだね。テセウスの船だよ。その話であってその話でない。」

『でも信じてしまうもんですね。私は絶対陰謀だと思ってた』


「陰謀なんかないよ。きっと大きな不安と、小さな偶然があるだけだよ」


『そのわりにはオカルト話好きですよね』

「いつも不安にさいなまれているんだよ」

『私もですよ。だからきっと好きなんですね。こういうの』

「あともうひとつ」

『なんですか?』

「怖い話をきくと、一緒にいる女性は恐怖のドキドキを恋愛のドキドキと勘違いして恋に落ちるんだってさ」


『あー』

「舞ちゃん、もしかして僕のこと好きなのかな?」

『それは大きな不安でも小さな偶然でもなく、愚かな勘違いですよ』