「そうそう!俺ね、この間この駅前で高校の時の友達に会ったんすよ!あれ?もしかしてって思ってあとでラインしたら“やっぱそうだよね?”って。ちなみにそいつ、女で俺と昔付き合う寸前までいったんですけどね!」
・・・助けてくれ。
ただひたすら私は頭の中でそう願っていた。
13時からともに外出し、すでに2時間。
中途入社1カ月。
「到底一人では行動させられないタイプなので同行してください」と上司に言われ、特に疑問もなく了承したのが間違いだった。
身長160cm。体重およそ90kg。汚い肌に汚い歯。
漫画シグルイに出てくる屈木頑之助のような醜い男は、この2時間ひたすら私にマシンガントークを放ち続けた。
「エルレとか好きなんですよね?」
「・・・いや。別に」
「あれ?ジターバグ歌ってたじゃないですか」
「ああ。その曲だけ知ってるんですよ」
「えー!俺めっちゃいろんなバンド好きなんですよ!ライブとか行くし」
「そうなんですね。僕は行ったことないなあ」
「僕ね、ライブ友達いたんですよ!女でね!お互い好きで付き合う寸前だったんですよ。でも俺他に女がいたんで、その子嫉妬しちゃったんです」
「それは仕方ないですね」
「仕方なくないですよ!あーやっとけばよかったな」
助けてくれ。
数分後、遅れていた客先担当者が到着し、名刺交換の後大人数での定例会が始まった。
我々に発言の機会がまわってくると彼は口を一切閉ざす。
30分ほどで定例会は終了し、我々は帰路につくことになったわけだが、先ほどの閉口が嘘のように彼はひたすら話続けた。
「あ!この駅!昔付き合ってた彼女ときたなあ」
「このアイドル、俺の友達に似てるんすよね。結構仲の良い女友達なんですけど」
「なんか仕事サボってカラオケ行きたいですよね。カラオケといえばこの間、女と・・・」
こいつ会議とか打合せで一切何もしゃべらないくせに・・・なんやねん・・・
「女の子がお好きなんですねえ」
嫌味っぽくそう伝えると彼は
「そりゃ男好きになるわけないでしょ!女でしょ!」
と言った。
電車よ、スピードをあげてくれ。
早く乗換でこの地獄から出してくれ。
なんらかの障碍が心の病があるのだろうか。
彼の口から放たれるそのマシンガンはどれひとつとして真実味のない言葉ばかりに感じられた。
それは彼の容姿も、彼の話方もそうであったが、一番はやはりとにかくすらすらとなんの空白も躊躇もなく、自分の経験を語り続けられることだろう。
そんなわけないんだから。
そんなに人生なんて誇らしいことばかりじゃないよ。
「どうでした?彼は大丈夫でした?」
「大丈夫じゃないですね。今日の定例資料は持ってこなかったですし、メモは何ひとつ取ってませんでした。多分今日のことも忘れるでしょう」
そして、自分のストーリーをつくっていく。
案の定彼は翌日までに作成しなくてはならない提案書を作成しなかった。
「どういうつもりで昨日定例会に行ったんですか?」
年下の上司は彼に冷たく言い放った後、私に「しっかりフォローしておいてください」とやや呆れ気味に言った。
「いやあ、年下ってやっぱすぐ機嫌悪くなりますよねー。面倒くさ」
と彼は私に言った。
きっとあと1か月くらいで辞めるだろう。
「いますぐ逃げたほうがいい。この会社は激務です。あなたはやめるべきだ。会社に殺される」
と私は冗談を交えながら言った。
「大丈夫っす。他の人よりももっとつらい体験、いっぱいしてるんで!始発で出社して終電で帰ったりとか!」
みんなあるよその経験は・・・
また週が明ければ仕事が始まってしまう。
そのうち私は朽ち果ててしまうのだろう。
・・・助けてくれ。
ただひたすら私は頭の中でそう願っていた。
13時からともに外出し、すでに2時間。
中途入社1カ月。
「到底一人では行動させられないタイプなので同行してください」と上司に言われ、特に疑問もなく了承したのが間違いだった。
身長160cm。体重およそ90kg。汚い肌に汚い歯。
漫画シグルイに出てくる屈木頑之助のような醜い男は、この2時間ひたすら私にマシンガントークを放ち続けた。
「エルレとか好きなんですよね?」
「・・・いや。別に」
「あれ?ジターバグ歌ってたじゃないですか」
「ああ。その曲だけ知ってるんですよ」
「えー!俺めっちゃいろんなバンド好きなんですよ!ライブとか行くし」
「そうなんですね。僕は行ったことないなあ」
「僕ね、ライブ友達いたんですよ!女でね!お互い好きで付き合う寸前だったんですよ。でも俺他に女がいたんで、その子嫉妬しちゃったんです」
「それは仕方ないですね」
「仕方なくないですよ!あーやっとけばよかったな」
助けてくれ。
数分後、遅れていた客先担当者が到着し、名刺交換の後大人数での定例会が始まった。
我々に発言の機会がまわってくると彼は口を一切閉ざす。
30分ほどで定例会は終了し、我々は帰路につくことになったわけだが、先ほどの閉口が嘘のように彼はひたすら話続けた。
「あ!この駅!昔付き合ってた彼女ときたなあ」
「このアイドル、俺の友達に似てるんすよね。結構仲の良い女友達なんですけど」
「なんか仕事サボってカラオケ行きたいですよね。カラオケといえばこの間、女と・・・」
こいつ会議とか打合せで一切何もしゃべらないくせに・・・なんやねん・・・
「女の子がお好きなんですねえ」
嫌味っぽくそう伝えると彼は
「そりゃ男好きになるわけないでしょ!女でしょ!」
と言った。
電車よ、スピードをあげてくれ。
早く乗換でこの地獄から出してくれ。
なんらかの障碍が心の病があるのだろうか。
彼の口から放たれるそのマシンガンはどれひとつとして真実味のない言葉ばかりに感じられた。
それは彼の容姿も、彼の話方もそうであったが、一番はやはりとにかくすらすらとなんの空白も躊躇もなく、自分の経験を語り続けられることだろう。
そんなわけないんだから。
そんなに人生なんて誇らしいことばかりじゃないよ。
「どうでした?彼は大丈夫でした?」
「大丈夫じゃないですね。今日の定例資料は持ってこなかったですし、メモは何ひとつ取ってませんでした。多分今日のことも忘れるでしょう」
そして、自分のストーリーをつくっていく。
案の定彼は翌日までに作成しなくてはならない提案書を作成しなかった。
「どういうつもりで昨日定例会に行ったんですか?」
年下の上司は彼に冷たく言い放った後、私に「しっかりフォローしておいてください」とやや呆れ気味に言った。
「いやあ、年下ってやっぱすぐ機嫌悪くなりますよねー。面倒くさ」
と彼は私に言った。
きっとあと1か月くらいで辞めるだろう。
「いますぐ逃げたほうがいい。この会社は激務です。あなたはやめるべきだ。会社に殺される」
と私は冗談を交えながら言った。
「大丈夫っす。他の人よりももっとつらい体験、いっぱいしてるんで!始発で出社して終電で帰ったりとか!」
みんなあるよその経験は・・・
また週が明ければ仕事が始まってしまう。
そのうち私は朽ち果ててしまうのだろう。