はこんばんちー。

 

 

これはいわば私たちがまったく興味の無い女、特にガールズバーの店員が多かったが、その人たちをネタっぽく適当にこれから口説きます、という合図のようなものだった。

 

やあ。おはこんばんちー。

 

そんなバカげた導入で始まる会話を口説かれた女の子達は楽しめるわけもなく、それはただただお互いにバカ笑いをし楽しむためだけの呪文だった。

 

あの頃の私とカフカ青年は、とにかく女性を口説いていた。

 

真剣なものなど何一つなく、とにかく適当だった。

 

大学を卒業し、社会人になり銀座の数寄屋橋の交差点で偶然にも再会した私達は、そこから6年近く、とにかく冒険をした。

 

新入社員だった私達は確かにあの頃、想像を絶する業務とまだ認知されることもなくハラスメントと冠されることもなかった理不尽に覆われ、毎日死と隣り合わせではあったものの、その分学生時代は手にすることのなかった額の賃金を得て、それを一瞬で泡のように溶かしていた。

 

泡がパチン!と弾ける音にすら耳を貸さず、とにかく私達は欲望の赴くまま、女性を口説いた。

 

時にはカフカ青年はmixiでガールズバー嬢にブチ切れられることもあったし、私は私で新婚ホヤホヤの鈴木をガールズバーに連れていったことで鈴木の嫁からみmixiでブチ切れられたことがあった。

 

責任を負う立場でありながらそこまで責任がなく、誰かに無条件で守ってもらえる新卒新入社員の時期は、冒険をするにはもってこいだったのだと思う。

 

 

時を経て私達がキャバクラやガールズバーへ行くことはほぼなくなった。

 

それは飽きたとかお金がもったいないというよりは、とにかくその冒険が現在の自分達にとって何も生み出さないことを理解したからだろう。

 

そして戻ることはないのだ。

 

 

東京ディズニーシーへ二人で遊びに行き、たまたま同日にきていたカフカ青年の後輩(なるちゃん)とバイト仲間の高校生男子一人女子3人と遭い、夕ご飯をご馳走しカフカ青年は後輩(なるちゃん)にかなり大きいダッフィーのぬいぐるみを買ってあげた。酒を飲んではストームライダーに乗った私達は激しく酩酊してしまっていた。

 

渋谷の馬鹿げたクラブへ行き、自分はエロいと自称する篠田まり子似の女の子を二人で追いかけたり、渡部あゆこちゃんへあまりにも適当に口説きメールを送った。

既存の人間関係を悪戯で壊し、自分だけが損をして周りに気持ち悪がられることが、なぜだか異常に楽しかった。

 

カフカ青年が懇意にしていた女子高生リフレの女の子二人とカラオケに行き、その若さを楽しんだ。

結局本当に女子高生なのか大学生なのかはわからなかったが、少なくとも自分達の知る女性とは肌の張りが違った。

 

ハロウィンに渋谷の街へ繰り出し、コスプレを堪能した後、プライベートで飲んでいるという馴染みのガールズバー嬢達に合流し、4人で酒を飲んだ。

あの夜に綺麗な女の子達と密にお酒を交わす私達は勝ち組だった。23時には解散をしたが、カフカ青年ともう1人には内緒でガールズバー嬢と再合流し、彼女の家でSEXをした。

 

 

 

全ての冒険が、貴重な“経験”だった。

 

けれどもいまは、“経験”ではなく、それが“思い出”に変わっていることを、私達は理解していた。

 

 

もう二度と戻れないのだ。