妙典駅で待ち合わせ場所にいた高津はやたらと綺麗になっており、その佇まいは紛れもなくマッチングアプリの待合せ女だった。

声を掛けて「マッチングアプリの方ですか?」と訊くと、『あ、そうです〜♩』とノリ良く反応してきた。

高津のこのノリの良さが私は気持ち悪くて苦手だった。



すぐに高津の行きつけの中華屋に移動。

メニューを観てテンションがあがった。

空心菜あるやないか。


直前にポップコーンキャラメルとオレンジジュースをしこたま飲んでいた私はとにかくしょっぱいモノが食べたく、そういう意味でも空心菜は最高だった。



ビールを頼み乾杯をすると、すぐに私は高津に「綺麗になったなー」と伝えた。

それは事実で目の前にいてビールを優しく飲む高津は、かつてイライラするたびに自分の太ももをポコポコ叩く意味不明な暗い女ではなく、
私や和泉が「あの子、めっちゃかわいいな」と絶賛しあわよくば付き合いたいなと妄想を語り合っていた頃の高津だった。


「いやほんとに綺麗になったよ」


そうもう一度言うとわずかな沈黙が席を包んだ。

どうにもギクシャクしたような変な空気が流れる。

そして彼女は私に、こう言ったのだ。


『先輩は会う度どんどんどんどん真ん丸になっていきますね』

と。


なんて嫌な女なのだろうか。これもうストレートな悪口をぶつけていることに気付いているのだろうか。


私はすぐに「もう太ってるでいいんだ。いままではとにかくモテることに全ての重きをおいてきたけど、それをもうやめたんだ。だからもう太ってる、でいいんだ」と返した。


高津は『そのほうがいいかもしれませんね』と言った。



その瞬間、ハッと我に返り、机の上をみた。

そこには油でギトギトの空心菜が置かれていた。


なんだこのおどろおどろしい毒物は…。

俺はさっきポップコーンを大量に食ったばかりなのに、こんな油まみれの毒固体をも食べるのか…。


一気に食欲に抑制がきき、私は結局頼んでおきながらこの空心菜を一口も食べなかった。お店の人本当にごめんなさい。



その後高津の新しい彼氏が鍛えていて朝ご飯にオートミールを食うことと、温泉旅行に行ったがあまり手を出してこずに、いざやったらやったですぐに果てて不完全燃焼的な話をきいた。


女とやりたいと思っていない奴が、いったいなぜ鍛えてあんなクソ不味いオートミールを朝食うのだろうか、と心から疑問に思った。


「お会計お願いします」と店員が言った。

時刻はすでに23時を過ぎていた。