宿から駅までの帰り道がかなり距離があるため、かなり大きいマイクロバスを利用したところ、20代前半くらいの若い女性3人組と一緒に乗り合わせることとなった。


やることが窓の外を見るくらいしかないためボーっとしていると、彼女達の1人が他2人に『料金の精算をしたいんだけど…』と申し訳なさそうにいった。


3人は各々ひとりずつ縦に並んでいたが、精算を持ちかけた女の子は一番後ろに座っていて、荷物もやたらと多く大変そうだった。


『あー、いま?』

1番前のボスみたいな女が言うと、3番目が『忘れないうちに…』と途切れそうな声で言った。

『全部100円でいいならいま払うよ』

『全部100円はちょっと…』

『小銭しかないんだけど』

『じゃあ…また後で…』

会話中、1番目は全く振り返ることなく、後ろにいる3番目にやや高圧的にモノを言っていた。

『ってかなんで全部小銭だよw』と2番目が笑うと、『いやガチだからwやばいよねw』と1番目も笑い、その後は2人で会話が続き、3番目は黙ってそれを聞いているだけだった。



なんて嫌な光景なのだろうか。 


よく見てみれば3番目は明らかに他2人と毛色が違い、仲が良さそうには到底思えなかった。

そのうち1番目と2番目は車内で化粧をしだし、携帯ヘアアイロンを貸借りしながらキャッキャとしていたが、それを3番目に貸すことはなく、しばらくするも1番目も2番目も眠りに落ちていた。

けれども3番目だけはずっと起きていて、時折窓の外の風景を写真におさめていた。



いやキミ、なんでそんなやつらと旅行なんかいったんや。


彼女が割りを食っているのは明らかだった。

会話から察するに料金も彼女がほとんどたてかえているのだろう。


ヘアアイロンのくだりもそうだ。

3番目は化粧を車内でしなかった。

これは恐らく、1人だけ先に起きて宿で化粧をしたということだろう。

そして2人を起こす係までやったんじゃないか。


考えれば考えるほど、彼女の境遇が手に取るようにわかり、私の胸を貫いていった。







昔、カフカ青年とクラブに行ったときに美人と美人でない二人組の女の子をナンパした。


美人のほうはあきらかに美人でないほうを子分のように扱っていて、『この子彼氏いないんでよろしくお願いしまーす』と簡単に初対面の我々にあてがい、『ちょっとやめてよー』と美人でないほうは困惑していた。

4人で飲んで良い感じになったタイミングで、カフカ青年が「どっちの女の子いきますか?」と尋ねてきた。

「僕はどちらでも良いです。カフカ青年が先に選んでください」と返すと彼は「僕はあの子で」と、美人でないほうを選んだ。


「もしかして気を遣っていますか?」

「なぜです?」

「こんな言い方はしたくないが、カフカ青年が選んだ方はハズレな方だ。彼女はスタイルもよくないし色気だってない。顔は言うなればできの悪かったテスト用紙を親に見つかる前にクシャっと丸めたような顔だ」

「その通りだと思います。僕も二人のどちらとヤリたいかと言われれば丸めたテスト用紙でなく、シャロンストーンのほうだ」

「ではなぜシャロンを選ばないのですか?」

「僕は気持ちがわかるんですよ。誰かと2人でいると、いつも僕の立場は丸めたテスト用紙のほうだ。なんなら今だってそうです。キミがシャロンで僕がテスト用紙。それで彼女がいつも選ばれない苦痛が僕にはわかるんだ。だから僕はこういう時は必ずテスト用紙を選ぶ。自分を救うために」


「なるほど。確かに僕も思慮が浅かったかもしれない。だけれども、僕はカフカ青年といて自分がシャロンストーンになっていると思ったことはない。寧ろ僕自身も、丸めたテスト用紙側だと思っていた」


「では2人とも丸めたテスト用紙…、いや4人のうち3人がテスト用紙ということになりますね。そこで提案なのですがこういうのはいかがでしょう」



「いいですね。ノりますよ」



そして私とカフカ青年は2人して丸めたテスト用紙を口説きまくった。

僕と付き合ってください、いやいや僕と付き合ってくださいの取り合いを10回近くやった。

終始困惑するテスト用紙を尻目に、シャロンストーンのほうは最初こそ『モテモテじゃーん!ウケる!』と騒いでいたが、蔑ろ状態が続くと全く喋らなくなり、やや不貞腐れながら携帯をいじっていた。



そんなシャロンストーンにカフカ青年が放った一言は痛快の極みだった。


「お前、奢ってやってんだから突っ立ってる暇あったら4人分の飲み物でもとってこいよ気がきかねーなあ」


シャロンストーンはそれをうけて完全に怒っていた。

『はあ?』とカフカ青年を睨みつけた。

すぐに丸めたテスト用紙が『もう帰ろう』と怒るシャロンの手を取り、私たちのもとを去っていった。



「やりましたね」

「いささかやりすぎましたかね」

「いえ、たしかにあれはあの2人は双方得なんかない。でも別に僕らは彼女を救おうとしたわけじゃない」

「たしかに僕らはボランティアで誰かの欲求を満たすお人好しではない」

「そう。僕らが救いたいのは、丸めたテスト用紙でもなければ、ましてシャロンストーンでもない。本当に救いたいのは、彼女達を通した自分なんだ」








いまでもカフカ青年とのあの夜を思い出す。

そしてあらためて、この3人組をもう一度観る。


なあ3番目。


つらいよね?

あいにくいまの僕にはキミを口説くことも喜ばせることも、この状況から脱出させることもできない。


でもわかっていてほしい。


僕ならキミを選ぶよ。


前に座る、いかにも頭の悪そうで下品な2人よりもね。

キミを選びたいんだ。

だからそんなバカげた2人とはさっさと縁を切ってしまいなさい。

小銭しかないから金返さないってもうそいつの親をぶん殴ってわからせないといけないレベルの案件だからね。


ただ、


なぜキミが選ばれたかというと、それはキミが一番選ばれなさそうだからだよ。

僕らは一番選ばれないタイプだからこそ、一番選ばれなさそうなキミを一番に選んだんだ。


つまりキミは俺であり、ブスだということさ。


だからこそ、なんにもしてあげられないけど

キミの背に翼が生え、こんな馬鹿げた環境から飛んで出ていけることを

心から祈っている。


いつか、あの曇り空を割って

虹を掛けてくれ。