サウナの無い大浴場は良い。

我が物顔の老人もいなければ、猿山のボスのようにわけのわからないモニュメントに腰掛けて涼むバカもいない。


前日の宿の大浴場でサウナが満員でまったく入れず、仕方なく露天風呂に浸かり労を癒していると、小学5年生くらいのガキが私に近づいてきて

「1人ですか?」と声を掛けてきた。


そもそも子供が好きでないのも相まって無視していたが、しつこく「1人ですか?」ときいてくる。

しまいには「この宿はあと何種類温泉があるんですか?教えてください」とさらにしつこく質問してくるので「うるせえ」と言うと「なんでですか」と食い下がってきた。

「あっちにいけ」と言うと少年はパタパタと浴場内を走り、父親らしき男性をつれてきて「あの人にうるせえって言われた」と指をさした。

男性は私をチラッとみて、すぐに少年に「そういうのいいから」と呆れ、腕を引っ張ってどこかに消えていった。


うんざりであった。これだから子供と老人は嫌いなんだ。




だがうってかわってこの日の大浴場は本当にマナーの良い人達ばかりで当たりだった。


露天風呂にいくとすでに先客として大学生二人組が何やら雑談をしていた。

自然と会話が耳に入ってきたが、どうやら恋愛相談をしているらしい。


一人が「板挟みなんだよねー」というともう一人が「どっちかしか選べんもんなあ」と腕を組む。

そして「まあでも友達は一生モンやから友達大事にせなアカンのとちゃう?」と言った。


聞けば相談者は最近彼女ができたものの、その彼女の束縛が激しく困っているという。

大学ではグループ7人組で行動しているそうだが、その中の3人は女の子で、彼女はそれに嫉妬している、と。

しかも7人で遊びにいったり旅行にいったりすると、彼女も必ずそれに同行してくるという。


「これじゃあ7人組じゃなくて8人組だよー」と彼はボヤく。

それは何がうまいのか面白いのかは全くわからなかったが、妙に悲壮感を帯びていて思わずクスッとしてしまった。


「それは彼女、アカンのちゃう?」


"それは自分が浮気してるから彼氏を束縛するんですよー"

と私だったら言ってしまうかもしれないが、相談員側はそのあたりをオブラートに包むあたり、スマートであった。



しばらく湯に浸かっていると、相談者が「先あがってるわー」と言い、湯船を出た。

後を追うように相談員が腰をあげると、「うるさくしてしまってすみません」と私に頭を下げて去っていく。




…そんなに迷惑そうな顔をしていただろうか。


あれは相談員なりの気遣いとしよう。そうしないとこっちのメンタルが下降してしまう。



にしたって

そんなに迷惑そうな顔をしていたのだろうか。