まとまった休みだからこそ毎日のように健康ランドに行きたいのだが、近所の健康ランドがお客様感謝キャンペーンをはじめたため、午前中から爺さん達が猿山のように大浴場を占拠している。
歳をとるとそうなるのかはわからないが、彼らは汚いしマナーが悪い。水風呂にずーっとつかっているし、サウナは変な位置に陣取るし、ベンチは一度腰掛けたら譲ろうとしない。
休憩所では泥のように眠りながら大きなイビキをかく爺さんがソファを独占するため、一向に休むことができない。
批判覚悟ではあるが言う。
他に娯楽はないのだろうか。
◯
健康ランドが休めないため必然的に散歩をすることばかりが増えてしまい、そうなると日々の風景が変わり映えしないため、毎回場所を変えて散歩をしている。
昨日はたまたま昔の彼女の最寄駅だった馬込沢を散歩した。
閑静な住宅街を歩いていると自然の昔の思い出が蘇ってくる。
思い出されるのは、彼女は母子家庭で、離婚した父親が家を購入していたがローンを払うことを拒否し、ついにその持ち家から出なくてはならなくなったことだ。
引越しを私も手伝い、車で移動するお母さんとお姉さんとは別に彼女と電車で新居へ移動したわけだが、あの時彼女はやはり何十年も暮らした場所を出ていかなくてはならなくなった悔しさから、私と二人になるとワンワン泣き出してしまった。
そりゃ悲しいに決まってる。
「もし将来も一緒にいたら、俺が買い戻すよ、家を」
そういうと彼女は泣きながら何度も『ありがとう。ごめんね』と言った。
結局その約束は果たされることなく、我々は別の道を歩むこととなったわけだが、やはりあの涙はどうにも忘れることができなかった。
もう十数年経ってしまったが、あの家はいまいったいどうなっているのだろうか。
そう思い昔の彼女の家を歩きながら探してみることにした。
だが全くみつからない。
というか道を覚えていない。
あんなにも印象深いことだったのに簡単に忘れるんだなあと思いながら、私は何度も何度も住宅街を右往左往した。
生命に寿命があるように、記憶にも寿命がある。
あの時、家を買い戻すと言った私は、自分でなんと男気溢れる良い男なんだろうかと内心酔っていたが、実は彼女からすれば大きなお世話でしかなかったかもしれないし、もしかしたらデリカシーを欠いていたのかもしれない。
そんなことすら考え始めた。
数分後、パトカーが私の横へノロノロと近づき、中から警官が現れ、「すみません、お兄さん何してるの?」と尋ねた。
考えごとをしながらあまりに同じ場所を長時間ウロウロしたため、どうやら地域の人から通報されてしまったらしい。
そりゃそうだ。不審者極まりない。ご迷惑お掛けして申し訳ない。
そんな思いから職務質問に応じていると、警官が「これ免許証切れてるね」と言った。
車に乗らないためすっかり忘れていたが、昨年で私の運転免許は失効してしまったのだ。
「6か月以内なら更新できるから」と警官は言った。
またひとつ、やることが増えてしまった。
歳をとるとそうなるのかはわからないが、彼らは汚いしマナーが悪い。水風呂にずーっとつかっているし、サウナは変な位置に陣取るし、ベンチは一度腰掛けたら譲ろうとしない。
休憩所では泥のように眠りながら大きなイビキをかく爺さんがソファを独占するため、一向に休むことができない。
批判覚悟ではあるが言う。
他に娯楽はないのだろうか。
◯
健康ランドが休めないため必然的に散歩をすることばかりが増えてしまい、そうなると日々の風景が変わり映えしないため、毎回場所を変えて散歩をしている。
昨日はたまたま昔の彼女の最寄駅だった馬込沢を散歩した。
閑静な住宅街を歩いていると自然の昔の思い出が蘇ってくる。
思い出されるのは、彼女は母子家庭で、離婚した父親が家を購入していたがローンを払うことを拒否し、ついにその持ち家から出なくてはならなくなったことだ。
引越しを私も手伝い、車で移動するお母さんとお姉さんとは別に彼女と電車で新居へ移動したわけだが、あの時彼女はやはり何十年も暮らした場所を出ていかなくてはならなくなった悔しさから、私と二人になるとワンワン泣き出してしまった。
そりゃ悲しいに決まってる。
「もし将来も一緒にいたら、俺が買い戻すよ、家を」
そういうと彼女は泣きながら何度も『ありがとう。ごめんね』と言った。
結局その約束は果たされることなく、我々は別の道を歩むこととなったわけだが、やはりあの涙はどうにも忘れることができなかった。
もう十数年経ってしまったが、あの家はいまいったいどうなっているのだろうか。
そう思い昔の彼女の家を歩きながら探してみることにした。
だが全くみつからない。
というか道を覚えていない。
あんなにも印象深いことだったのに簡単に忘れるんだなあと思いながら、私は何度も何度も住宅街を右往左往した。
生命に寿命があるように、記憶にも寿命がある。
あの時、家を買い戻すと言った私は、自分でなんと男気溢れる良い男なんだろうかと内心酔っていたが、実は彼女からすれば大きなお世話でしかなかったかもしれないし、もしかしたらデリカシーを欠いていたのかもしれない。
そんなことすら考え始めた。
数分後、パトカーが私の横へノロノロと近づき、中から警官が現れ、「すみません、お兄さん何してるの?」と尋ねた。
考えごとをしながらあまりに同じ場所を長時間ウロウロしたため、どうやら地域の人から通報されてしまったらしい。
そりゃそうだ。不審者極まりない。ご迷惑お掛けして申し訳ない。
そんな思いから職務質問に応じていると、警官が「これ免許証切れてるね」と言った。
車に乗らないためすっかり忘れていたが、昨年で私の運転免許は失効してしまったのだ。
「6か月以内なら更新できるから」と警官は言った。
またひとつ、やることが増えてしまった。