「ねえ、みくちゃん。こないだちょっと納得がいかなかった話があるんだ。聞いてもらえるかな?」


『もちろんいいですよ。どうしたんですか?』


「この間結構大きい営業案件があったんだ。複数社が絡む案件で」


『おお、かっこいいですね』


「そこにもちろんウチも参加したんだけどね、協力会社と一緒に。協力会社は僕は初めて一緒に仕事をする会社で顔合わせもしていない」


『全部メールとか電話だけですか?』


「いやメールだけだね。で、その協力会社の担当者が・・・まあ苗字は割愛するとして”アキラ”と”ヒトシ”って名前だったんだ」


『なんか漫才師みたいな名前ですねw』


「それでこの案件、複数社絡むもんだから打合せの日程調整がすごく大変でね。なんとか調整して全社集合できるようにしたら候補日が2日分しかなかったんだ」


『ああ。複数に絡むと大変ですよね』


「ところがその候補日、たとえばA日とB日とするよ?さっきの協力会社、A日はアキラが参加不可能、B日はヒトシが参加不可能だったんだ。つまり1日、アキラかヒトシのどちらかを選ばなければならない」


『どっちを選んだんです?』


「僕はB日、つまりアキラの参加を選んだ。なぜなら当日、女性専用エリアへの入室や確認、調査があったからなんだ。必ず女性が必要だった。事前にこの協力会社は担当者は男女1人ずつときいていた。”アキラ”と”ヒトシ”。両方とも男みたいな名前だけど、女性であるならば”アキラ”だ」


『いますよね、アキラって名前の女の子。私の友達もアキラって子います。日を三つで”晶”』


「こっちのアキラは”瞳”と書いてアキラだよ」


『瞳だったら女の子っぽく見えますね』


「ところが、だ。当日打合せに現れたのは男性だった。僕よりも年上の。なんでヒトシがきたんだ!と思って聞いてみたら、なんとその男性が”アキラ”だと名乗った」


『ええ!ってことは?』


「そう。”ヒトシ”が女性だったんだ」


『ええええ聞いたことない!で、どうなったんです』


「肝心の女性専用エリアに入ることができず、結局途中でバラシになった」


『あらら・・・』


「むちゃくちゃ怒られたよ。どうするんだ、また調整すんのか、ちゃんとしろって。全社の視線もあってめちゃくちゃ死にたかったよ」


『有馬さんかわいそう』


「でもみくちゃんどう思う?アキラとヒトシのどちらが女性でしょうかって聞かれてヒトシを選ぶわけがなくない?」


『なるほど。それはブーバキキ効果ですね』


「ブーバキキ効果?」


『まず丸っぽい形の図と星をよりギザギザさせたような図を並べて出すんです。有馬さんはその図を見て”丸とギザギザ、どっちがブーバでどっちがキキですか”って問われたらどう答えますか?』


「そうだなあ、丸がブーバでギザギザがキキかな?」


『ですよね、なんとこれを聞かれるとどんな国の人でもどんな年齢の人でも98%の人が丸をブーバと答えるそうです。なんの根拠もないのに』


「ええ。なんでそうなっちゃうんだろ?」


『イメージとかが勝手に根付いてるんです。環境や経験に関係なく。なんらかの普遍的なものが』


「なるほど、たしかに”ヒトシ”は絶対男性だ、なんてなんの根拠もないね」


『これがブーバキキ効果です。まんまとこれにはまりましたね』


「でもそうだとしたらだよみくちゃん。これって俺が悪いのかな?仕方ないってことだよね」


『いや有馬さんが悪いです』


「なんで?」


『ちゃんと打合せ詳細と意図を協力会社さんに伝えてないからです』


「なんで僕が伝えてないと思うの?」


『ちゃんと伝えてたら”ヒトシ”がくるはずですから。』


「なるほど。グーの音も出ないよ」




『精子は出します?』






「出します」




こうして今日も私はみくちゃんに抜かれた。


このみくちゃんに会うために、私はメンズエステに月2回も通っている。



破綻の日も近いだろう。