昼休み、社内の固定電話が鳴った。
電話をまず受ける部署の総務課が皆お昼休みに行ってしまい、お留守番の井本さんが対応を行う。
しかし運悪く別の固定電話が鳴ってしまい、誰も電話に出ることができない状況。
ということで私が代わりに電話を取った。
『〇〇課の荒井さんを至急でお願いできますか』
「大変申し訳ありません。お昼休みに出ておりまして」
『そうですか。至急折り返しでお伝えお願いできますか』
「承知しました」
すぐに荒井へ取り次ぎを行う。
「××社の方から至急折り返しがほしいとのことです」
「あのさあ。昼休みなんだよ俺は。昼休みはそういう取次しないでって言ったよね?」
「すみません。総務は皆対応中でしたので私が代わりに出て、その事情は存じませんでした」
「あ、そう。じゃあ次からそういうふうにして。キミは新入社員の方?』
「いえ違います」
「そう。なら余計に頼むよ」
こいつ固定電話応対しただけで俺が研修中の社員かなんだかと思ってるな・・・
俺のほうが役職上だぞ・・・
不満気な顔をしていると、他の電話対応を終えた井本さんが話かけにきた。
『有馬さんすみません。電話対応していただいちゃって』
「いえいえ。全然大丈夫です。荒井さん宛でしたので取次してあります」
『あ・・・それは本当にすみません』
「なんか“昼なんだからそんなの取り次ぐな。よく覚えとけ”って言われちゃいました」
『いつもそうなんです。その割に至急折返しが多いのでこちらも困ってたんです。助かりました』
「いやいやー全然です」
『あれ?有馬さんのデスクトップ。こないだのバンプのライブ行かれたんですか?』
「あ、そうなんですよー。なんか声出し解禁で嬉しかったから記念にトップ画にしちゃいました」
『いいですね!楽しかったですか?』
「それが“お前の声聞かせてくれー!”って煽られてから6,7曲くらい連続でバラードやられて。ひっくり返りそうになりましたよ」
『えー。やっぱりもう私達の知るバンプじゃないんですね』
そう言い終わったタイミングでまた固定電話が鳴り、『じゃあありがとうございました』と井本さんは席に戻っていった。
昼休みが明け、しばらく業務を行い、1時間くらい経っただろうか。
そこで私は唐突に思った。
あれ?
井本さんと俺、普通に会話してね??
【前回までの井本さん(以前の日記ご参照ください)】
私は井本さんのことが好きで色々ありつつ、確実に仲は良くなり距離は縮んでいると思っていた。
けれども1カ月前。私が社内鍵の持ち出し手続きのため総務課を訪れ、井本さんに処理をお願いしようとしたところ、物凄い勢いで課長の柴崎さんが『ちょっと待って!!池山さん対応して!』と言い、池山さんが私の申請書を奪い手続きを始めた。
井本さん忙しかったのかな?と思いながら昼休み、今回のパターンとまったく同じで私が総務の電話を代理応対したところ、池山さんがお礼を言いにきた。
案件を伝えると、『それは井本さんが連絡していた件だと思います』と言うので、「じゃあ井本さんに取次ますね私」と伝えると、これまた物凄い勢いで『私が取次ますから!!!!』と池山さんにメモを奪われた。
なぜこんなことになるのかというと考えられるのは2択で、井本さんが私との一切のコミュニケーションを拒否し総務課が井本さんを守っている、か、池山さんが実は私のことを好きで総務課がその恋を後押ししているかだ。
もちろん後者であるわけがないので、これはつまり井本さんは私を完璧に拒否しているということだ。
【以上前回までの井本さん】
しかし今日、確実に拒否は存在しなかった。
ええええ!リジェクトされてないじゃん俺!!
正直私は本当に井本さんに嫌われていると思い、それであるならば私の存在がストレスになり彼女の業務の妨げになってはいけない、と一切の接触を断ち、存在感を消すことに努めてきた。
だがその必要は無かった。なかったのだ!!!
この会話、第三者の意見は一切きいてないけどこれは間違いなく俺のこと嫌いではない!!やったー!!
と、同時にこうなるともう1点気になる部分が浮上してくる。
前回の井本リジェクト事件の原因は必然的に後者・・・“池山さんが実は私のことを好きで総務課がその恋を後押ししている”になってくる。
ええ・・・嘘・・・そんなことある?
もーう。みんなさあ。
恋愛もいいけど仕事しようぜえ(ホクホク)
まったくしょうがないなあ(ホクホク)
ちなみに今日は突然予定外に顧客から「打合せ時間、13時だと思ってたんですが19時でした。大丈夫でしょうか?」と言われた。
どんなミスやねん。間違えるか普通。
しかしそんなことはまったく気にならず、上機嫌に私は返答したのでした。
「いいですとも!!」