『お客さんによってはいきなり勝手にオッパイを触ってきたり、足を股間に押し付けてきたり、抱きついてきたりする人がいるんです』

「へー。漫画で読んだことあるな」

『だからそれは禁止行為です!ダメです!って強く断るようにしてるんです。だいたいの人はそれでやめてくれるんですけど中にはそれでもやめずにしつこく襲ってくる人もいます。どうしても抜いて欲しいっていう人とか、あとはやたらプライベートで誘ってくる人とか』


「そういう人ってどうなるの?」

『まあNG客になりますね』

「でもみくちゃんをデートに誘いたい気持ちはわかる」

『ええ?ほんとですか?じゃあ外で会いたいってことですよね』

「みくちゃん、"ハーリングの鏡"って言葉知ってる?」

『ハーリングの鏡?なんですかそれ?』

「先の戦争を終結させた英雄、ビンセント・ハーリング元大統領の最期の行動へのそれぞれの捉え方のことだね」

『戦争の話ですか?』

「そうだよ。国際軌道エレベーターに視察に訪れたハーリング元大統領は、運悪くその利権のために唐突に開戦宣言された戦争によって潜伏を余儀なくされた。外は戦闘機や無人機が飛び回る中、救出用ヘリコプターのシーゴブリンも全滅。ただ一機エンジンがかかった状態だった輸送用ヘリに視察に同行していたジョンソン大佐と共に乗り込み脱出を図った」

『国際軌道エレベーター??』

「自国戦闘機の支援を受けながら脱出に向け安全圏を目指す輸送用ヘリ。けれどもその途中、敵機の攻撃を被弾しコクピットのジョンソン大佐は死亡。ここで通信は途切れる」

『死んじゃったんですか?』

「いや、おそらくこの段階でキャビンにいたと思われるハーリング元大統領は生きていた。しかし通信が途切れた直後、安全圏を目指していたヘリは突如反転。国際軌道エレベーターに向かい飛び始めた。周囲の困惑のなか、すぐに輸送用ヘリは撃墜。ハーリング元大統領は亡くなったとされている」

『ええ悲しい』

「ここで問題なのはねみくちゃん、なぜハーリング元大統領は最期の瞬間の前、ヘリを反転させ軌道エレベーターに戻ろうとしたのか、なんだ。みくちゃんはどう思う?」

『そうですね…逃げたかった?とか?』

「そう考える人もいる。ある人は"ハーリングは軌道エレベーターに突撃し、破壊しようとした"と言う。またある人は"軌道エレベーターに放たれたミサイルをハーリングが身を呈して守った"と言う。真実はハーリング元大統領が亡くなってしまっている以上、誰にもわからない」

『え、なんか逃げたかったって言った私はバカみたいじゃないですか』


「大丈夫だよみくちゃん。ここで大事なのはその行動への解釈が人それぞれだということだ。"立場によって事象の見え方は違い、その解釈は主観を写す鏡となる"。このことを"ハーリングの鏡"と言うんだ」


『ちなみに私、ハーリングの鏡も軌道エレベーターもそんな戦争があることも知らないんですけどそれって現実の話ですか?』


「いや、ゲームだよ」

『ゲームじゃないですか…』


「話を戻すけどね、たしかにお客さんの中には無許可でいきなりセラピストの胸や股間を触ったり、行為を迫ったりする人もいる」

『はい。ほんとに困ります』

「みくちゃんは彼らをルールを守れない勘違い野郎だとしている」

『まあ正直そう思いますね』

「でも僕はこう思う。彼らは初めから怪物なのではない。優しくされ恋におち、その上興奮してしまい変貌した善人なのでらないかと」

『ほんとにそう思ってます?』

「思っている。そしてそれが鏡だ。それをあらわすように僕の股間をみてほしい。ビンビンだ。ビンビンセントハーリングだ」

『じゃあ私のオッパイさわりますか?』

「…遠慮します。リピートしたいので」

『鏡どこいっちゃったのwじゃあ今日は特別に』


そう言ってみくちゃんは私のハーリングを優しくしごいた。


ほどなくして、私は国際軌道エレベーターから、宇宙へと飛び立ったのだった。