「なんか随分変わったなあ」と大野は言った。

それはしみじみと、というよりは完全に私を醜いものとしてみていた感じだった。


休日ということだが特にやることもなく、借りていた本を返そうと地元の図書館に行ったところ、その道中でバッタリと同級生の大野に会った。


何やら携帯ゲームみたいなものを操作しながら、図書館の前の道を行ったり来たりしていて、私は最初不審者だと疑ってしまった。

しかしよくみればそれは大野だったので「大野!」と声を掛けた。


すると大野は3秒ほど無言でじっとこちらをみたあとに

「ああ。お前か」

と言った。


そしてもう一度私の身体を上から下までじっくり見た後、
「なんか随分変わったなあ」と言ったのだ。

それは言葉にこそなっていないが

太ったなであり、老いたなであり、なんだお前、と言っているようなものだった。


とにかく大野は私に怪訝な顔を向けたのだ。


大野とは実は小学校、中学校、高校と同級生だ。

つるむ友達も別であったため友達とは言い難い関係ではあったが、会話はそれなりにしていたはずだ。

20歳の時の小学校の同窓会ではお酒を注ぎ合って乾杯もしたし、4年前には共通の友人のイベントで下北沢で会話も交わしている。

それなのに彼は、まるで不審者に話しかけられたかのように私を見た。


実際昔から、大野は私に変に上からであった。

それを言うのであれば私自身も大野をバカにして下に見ていたのかもしれない。
だが彼自身も確実に私を下に見て、私のやることを全て気持ち悪いと言ってきたように思う。
それゆえに完全な友人になれなかったのだろう。

そしてこの日の大野の視線は、まさにこれまでずっと私に投げかけてきたバカにした視線だった。

けれどももう2023年。ふたりとも中年だ。
もう大人だからそういうのやめないか・・・
ってか下北沢の時、そんな顔しないで普通に会話してたやないか。
どうして二人になるとそうなっちゃうんかなあ。


「じゃあまたな」

そういったが大野は「ああ」とそっけない返答をするだけだ。


大野のアトピーは悪化していた。

小学生の時からそれに悩まされていたが、この歳になってかなり厳しそうに何度も何度も顔をこすっていた。

先程から同じ道を何度も何度も行き来し、そのたびにしんどそうに顔をかいている。


上述のこともあって彼のことはあまり好きではないが、それでもやはり私にはわからない苦労を彼はしてきたのだろう。
もしかしたらそういう部分も、私は潜在的にバカにしていて、それを感じ取った彼が絶対に私への緊張感をとかなかったのかもしれない。



夜、ランニングをしながら自分の身体を見た。

醜いな。まあ大野が醜いもの認定するのもしかたない。


現在ダイエットは10日目を経過した。
必ず3日坊主の私が、10日もダイエットの一環でランニングを続けているのだから、褒められて然るべきだと考えている。

だが体重は減らない。現状維持のままだ。

如実に成果が表れるのは3か月後だとよくきくが、これだけ息を切らしながら毎日走っているのに、体重が変わらないのは不安になる。

このまま一生醜いままなのだろうか。




そうならないために走ってるんだよ俺は。大野。

痩せるかどうかなんてわからないよ。でも俺は走るよ。

お前の苦労もお前の生きてきた道も知ったこっちゃないけど


元気なうちは、お互いなるべく走ろうな。